箱雑記ブログ

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カリカ単独ライブ『魔王コント』

1年ぶりのカリカ単独。ベルベットもモノクロアタックもレインボーアタックも乙女少年団もMEETSもみんな好きですけど、やっぱり「単独ライブ」と銘打たれるとこちらの気持ちもそれらとは別の方向にぐっと持っていかれるなあと思います。去年の単独での衝撃が未だ鮮烈なのもあります。しかも魔王だし。魔王て。カリカというコンビの持つ雰囲気と、魔王という言葉とが持つ意味不明の親和性てなんだろうなあ。期待を極限まで上げに上げて、全力で見に行ってきました。毎度のことですが、頭の中をぐちゃぐちゃにかき混ぜられる面白さが大好きです。以下ネタバレ上等でのまとまりのない感想です。




やっぱりどうしても1年前のしゃべるコントの衝撃が忘れられない私だったりするのですが、1年前とコントそのもののアプローチというか手法というかが全然違うなあということがまず印象的でした。色々ぐだぐだと無い頭で考えたんですけど、前回は「しゃべる」という原始的で根源的なテーマ(コントにとって、というか芸人さんにとって、しゃべるということは大前提だし最低条件だし)に家城さんが真っ向から戦いを挑んでいった結果があの単独ライブだったんだと思うのですが、今回は「魔王」という、誰もがその単語を知っていてどういったものかも何となく認識している、でも存在そのものはファンタジーでぼんやりとしていてなんだかよく分からない、というものを扱ったから、こういうアプローチになったのかなあなんて思ったりしました。もっと上位レイヤ層のテーマというか。自分でも何書いてるのか良く分かりませんが、前回のテーマが物理層だとすると、今回の魔王はアプリケーション層、みたいな印象です。だめだ、もっと分からなくなった。すみません。*1
「しゃべるコント」やMEETSなどを見ていていつも感じていた、悪く言えば雑多な、よく言えばあらゆるものを内包しまくった、圧倒的な情報量の多さのようなものをそれほど感じなかったのは、逆にテーマが「魔王」一本に絞られていたからかなあと思いました。だから、2時間半のコントの道筋はごくシンプルだと思うんですが、その分魔王そのものを何ぞやと定義しようとする部分(特に終盤、林景荘が魔族となってから)に作り手の執念めいたものを感じて、家城さんが長い時間を魔王にささげたその格闘ぶりに、ちょっと圧倒されたというのがありました。
もちろん、相変わらずいろんな要素を詰め込んでいて情報量が多いのはいつものことで、誰にももらわれない姫の「ありがとう」であるとか、三途の川でのざわざわであるとか、「魔族になってから人間の感情を手に入れた稀有な存在」であるとか、お下品婦人の最後の表情であるとか、そういう部分にいちいち揺さぶられたりしていたのですが、それでもやっぱり、一貫して描かれているのは正しく「魔王とは何ぞや」であったなあと。テーマがファンタジーであったがために、個人の内面をひたすら深く抉るような業の深さや情念の重さはそんなに感じなかった気がしますが、「魔王を殺せますか」の一点に関してひたすら突き詰めていく様と、魔王=神という事実に対する葛藤と翻弄されっぷりにはだいぶ脳内をかき混ぜられました。「何かのために誰かを殺せるか」というテーマは、家城さんの手にかかるとどうしてこんなに脳にビリビリくるんだろう。
で、なんだかんだで私が今回の単独で一番揺さぶられたのは、やっぱり「必要悪など許していたら進化はないのだ」だったりしたのです。それが結局叶わなかったことにちょっとがっくりしたくらい好きでした。
だからあの馬鹿馬鹿しいオチは大好きです!どうせ魔王が死んでもまた別の魔王が派遣されてくるんだろうみたいなことはどうでもいいんです(笑)


超余談ですが、直前に恵比寿で『小三治』という柳家小三治師匠のドキュメント映画を見ていたのですが、志の輔さんが映画の中で「尊敬する落語家の先輩方は、全員が落語と格闘している」と言っていたのを思い出したりしました。タイムリーすぎた。


「あなたは魔王を殺せますか」というフレーズのニュアンスが、見始めたときと見終わったときとで全然違うのがまず面白い。最初は単に魔王が強すぎて殺せないよ無理だよ!という意味で使われているのに、章のラストタイトルでのこのフレーズは、これこれこういう理由があって存在している魔王を、あなたは本当に殺せるの?という意味合いになっちゃう、というのに今更な感じで気付いてみたりしました。考えてみると、壮大なダブルミーニングだなあ。
魔王の存在意義が人類の共通の敵であるとか、ラスボスが神もしくはそれに匹敵する存在だった、というものは、多分ゲームの世界とかだとそんなに珍しくない設定だったりすると思うんですが、例えばゲームなどでは恐らくなかなか生まれにくいであろう、事実に対する葛藤でもって、一気にラストシーンに向かって暴走していく様も面白い。魔王のやっていることは最終的に人間を守るための行為で人間は本当にどうしようもない輩なんだからしょうがないよね、という発想に家城さんが至った経緯はちょっと知りたいなーと思ってます。あそこのシーン、いかにも人間の上に立つ神様らしい、私情ゼロのドライであっさりした語られ方をしているので、なかなか怖いんですが、魔王=神が言っていたことが本当なら、あの世界の人間は救いようがないほど愚かな存在ってことですよね。


土曜に見てて唯一腑に落ちなかったのが、「何故『魔王を殺す、魔王がいなくなって戦争が起きてもそれを止めればいい』とまで言い切って魔王を倒そうとした決意が、魔王の自殺によって真逆に切り替わって、林景荘は魔王を継いじゃったんだろう」という点だったのですが、日曜に改めて見てて、「魔王を殺す」という初期衝動が魔王の自殺によってゼロクリアになっちゃったからなのかなあ、という気がしないでもない、と思ったり。それまで死ぬほど葛藤したという独白があったから、コントの中ではあっさり魔王を殺す決意をしたような時間経過に見えたけど、本当は迷っていたということは、何かのはずみで簡単に逆側に天秤が傾いてもおかしくないくらいのバランスだったのかな、と。そんな風に思えたのは、日曜の林さんのパフォーマンスにそう思わせる説得力みたいなものがあったのかもしれない、と勝手に妄想してみます。


コントオーバーに至るまでの軽めのRPGノリと、それ以降の林景荘が魔族となってからの話のノリとか、全然違うのも面白い。最後まで見ていくと前半のあのノリが必要だったのだと分かるんですが、前半を見ていると、ええーこんな感じで進んでいくの?とちょっと心配になったりしてた自分は見事に手のひらの上でした。自分の余計なお世話っぷりが今となってはだいぶ面白い。
漫才からのいくつかのコントがものすごく大事な後半への足がかりだったりするんだからにくいです。よくよく考えたら、林さんが2時間半の中で林景荘でなかった瞬間は一度もないんですね。面白いなあ。
センテンス的に一番好きだったのは、やっぱりお下品婦人と林景荘のやり取りのシーンです。肝のシーンなので印象的なのは当たり前ではあるんですけど、それにしてもお下品婦人のキャラクターの分厚さが圧巻。「私の作品が神をも超える。お下品だわ」なんてね、そんな台詞にあれほど違和感もなく説得力抜群だなんてことはあまり無い気がするわけです(笑)こういう何かに偏執的であるがゆえにインモラルなキャラを描かせると家城さんは本当にすごいなあ。そういえば、全身網タイツ姿を見て友人ともどもテンションがぐんと上がってしまったのは本当に女子として駄目だと思いました(笑)久しぶりだったので*2否応無しにわあ!ってなっちゃいました。家城さんにとっての、女性が命がけで戦う際の戦闘服ってのがあれだったりするのかなー。どうなのかなー。
林景荘が、魔族として生き返ってからの方が人間らしい感情を持っている、というのも好き。人間らしく悩んで葛藤することで成長して魔王に近づくっていう矛盾は業が深いなあと。業が深かったり妄執にとりつかれてたりするキャラがカリカのコントの中には必ず出てきて、その人たちが異様な説得力でもって鮮やかに息づいている、というのは、私が家城さんの作るものが好きな理由のひとつかもしれないなーと改めて思いました。そりゃポップになりようがないよなーと(笑)


もっと単純な話でいくと、南国の姫・みゆきちゃんの素晴らしき存在感とか、それに対する林さんの素晴らしきリアクションの数々も抜群に面白い。みゆきちゃんが可愛く見えてしまうのは病気らしいです(笑)困った。みゆきちゃんの最後の笑顔と「ありがとう」はなかなか切ないし侘しいしでいいなあと思います。
もっともっと単純でピンポイントなことでいえば、「アキラ神拳・浪花節だよ人生は」に関しては、何をどうやったらあんなこと思いつくんだ?と感心しかない(笑)ネタをつくるにあたって、攻撃の手段として清水アキラを引っ張り出してチョイスできる脳みそってどんな色してるんだろう。しかもそれだけならまだしも、返す手段がある、歌に入ると返すことが出来る、リセットするのは8点、の一連の流れは本当に、傑作としか思えない(笑)ていうか8点でリセットの元ネタが分かるのは、タイガーバームと同じくらいの年齢を要するのではないかと。
不動産屋のセンテンスでの、とどろきさんの「とどろいてます」もたまらないんですが、「マッハ」のあの一連の動きもさらにたまらない。意味がないのに抜群に面白いってどういうこと。
あと、要所要所で「あ、この人今壊れた」と分かる瞬間があったのも大好きだったなあ。お下品婦人が口をたたきながら棒立ちになってるのとか、みゆき姫がファイトを歌いだす瞬間とか。壊れる様を表現する手段が多すぎて笑うしかないです。家城さんが壊れた人をやってみせてくれるのが上手すぎるのもあるかなあ(笑)
他にも、ポイントとしてうわーうわーと笑いが止まらないところは山ほどありました。説明の足らなさが自分のいろんなところをくすぐってくれるので楽しくてしょうがないです。棒を飼う飼わないのコントのところで、子供に向けて銃を撃つシーンの、あの一瞬で空気が変わるぞっとするような緊張感とかも、笑いとはまた別のベクトルでじわじわきました。


プレイヤーとしてのお二人について、一番印象的なのは、林景荘が魔王の任務を告ぐと客席に向かって宣言した後に、一度舞台の後方に下がるために後ろを向くときの、一瞬客席に向かって残る表情が、あれがもうかっこよすぎてうわーとなりました。ものすごく陰惨な空気なのが素晴らしいんです。あんなのが様になっちゃうんだなあと思うと、林さんのポテンシャルってすごいなーと阿呆みたいな感想しか出てこない。大前提として、家城さんが林さんの使い方を熟知しすぎているというのがあるんだと思いますが。
家城さんは、相変わらず女性キャラのクオリティが高くて降参です。お下品婦人を見ていたら医龍のドラマの夏木 マリを思い出した、と友人に話したら、間髪いれずに「夏木 マリに謝れ」と怒られたのもいい思い出です。


あ、映像も!素晴らしかったなー。天使との毒を飲む飲まないのあのオープニング映像は、なんだったら全編通して一番好きだったかもしれません。天使がぱたりと倒れたのを見てごくナチュラルに笑うカリカ二人がなんともいけない色気でうわーとなりました。
タイガーバームガーデンについては何も言うことはない(笑)7つの虎のあたりって、タイガーバームありきだったんですかね。それだけ気になる(笑)
そういえばオープニング映像的な映像が2つあったのも、見たときはなんだろうと思ってて、でも先に進むとなるほどと分かるのがまたオシャレでたまらないです。


それにしても、見終わってああだこうだと言い合ったり悶々と考えたりしてしまう公演だったなあと。なので、感想はともかく、自分の勝手な解釈みたいなものはなるべく持たないようにフラットな気持ちで見ようと心がけました。じゃないと本当に自分の都合のいいように解釈しまくってあれこれ語ってあとで恥ずかしいことになりかねないと…またそういう作業が嫌いじゃないたちなので、逆に己に戒めを(笑)*3


以上です。とりあえずこんな感じで、また何か思い出したら追記します。個人的には、今回の単独はちょっとオトメメンよりの単独だったなーという印象でした。やっぱりテーマがファンタジー寄りだったからかな。
日曜昼のお詫びライブには行けてませんので、もしかしたらそこで語られていた裏話をご存知の方にとっては的外れな感想も書かれているかもしれませんが、そのときはそっと教えてやってください(笑)

*1:参照:Wikipedia「OSI参照モデル」

*2:私個人としてはオトメメン以来の全身網タイツでした。

*3:スーツと着物の切り替えには理由があるのかなーとか、魔王職を告いだらその時点で神になるってことかなーとか、そういう…多分言い出したらきりのない話ばかり。