箱雑記ブログ

色々まとめています

本公演というもの。

ちょうど今だから書いておきたいことを、遠慮なく書いたらなかなかの長さになった。


本公演という言葉は、考えてみると吉本の芸人さんやお客さんでないとあまりピンとこないのかもしれない。松竹にもあるのかな、本公演。
本公演のことを、「会社が持つ劇場で、特別なイベントではなく通常時に行われている寄席」と認識している。寄席というと普通は落語だけど、要するにいろんな芸人さんが決められた持ち時間でそれぞれネタを披露する公演、という意味で使うとして、それを吉本の劇場で芸人さんがやってる公演が、本公演。という認識。誰かに確認したわけじゃないので認識がずれてたらごめんなさい。
要するに最近無心でPOISON GIRL BANDの漫才を追いかけていて、そうすると行き着く先は本公演とは切っても切り離せなくなるので、自然と本公演を見る機会が増えるという話。おかげさまで最近本公演を観るのがとても好きだ。簡単に言うと見ごたえがある。何故見ごたえがあるのかというと、いわゆるよく観るお笑いのライブよりも“難しい”と思うことが多いから。

M-1の2008年だったかな。あの時も心底感銘をうけたナイツ塙さんの言葉を今になってより現実味、むしろ真実味を持って実感している。「自分達を知らないお客さんを笑わせなければ意味がない」という主旨の言葉。9月のネタ9で、誰かに自分達の主催ライブはやってないの?と聞かれた吉田さんが、まさに同じ主旨のことを言っていた。「自分達のライブには自分達のお客さんしか来ないから」というような、文脈は正確ではないかもしれないけれど、そういう意味のことを。否定的なニュアンスではなくて、自分達のお客さんではないお客さんを前にしてやりたいことがある、というポジティブなニュアンスととらえている。
もう今更自分達を好きだというお客さんばかりの前で新ネタを試したりする段階ではないのだろうな、と。芸歴もあるだろうけど、目指す漫才に行き着くための思いみたいなものも、ご本人方の中にはあるのかもしれない。あくまで勝手な想像だけれども。

本公演というのはまさに、彼らのことを知らないお客さんに漫才を観てもらうことのできる、最も身近な舞台ということになるのかもしれない。身近というのも最近だからこそ言えることで、半年前はポイズンには本公演の予定がほとんど入っていなかった。ルミネで1日3公演が月に1回、あとはたまに大宮があるくらい。幕張も沼津も今年の夏に初めて出演が決まっていた。去年のTHE MANZAIワイルドカードが。どうなってんのとずっと思っていたので、最近やっと増えてきた本公演が嬉しくて、つい観られるものには足を運んでしまっているというのもある。
私が観ていて感じる本公演の難しさは、まさに知らないお客さんを笑わせるということに尽きる。特にルミネはとても正直な劇場だなと感じていて、知名度のあまりない芸人さんへの反応がとてもシンプルで、たまに観ていてハラハラする。芸人さんは、彼らを知らない、興味のないお客さんをゼロから笑わせなくてはいけない。当たり前のことなのだけど、普段初見のお客さんに強そうだと思っている芸人さんでも大苦戦を強いられていたりして、難しい舞台だなとしみじみ感じる。
客席の様子はそのときそのときでまったく違うので、つかみどころがまったく無く、本当に飽きない。こんな舞台をいくつもこなしていけたら、ものすごく鍛えられそうだな…なんて生意気な感想を持ったり。実際そうやってナイツは強くなったという話だし。

POISON GIRL BANDという漫才師は初見の方の多い寄席や営業で苦戦するタイプというイメージがあって、実際めちゃくちゃ強いとは言い切れないと思うけれど、本公演における今のポイズンの戦い方(というといかついけど、あえて)は観ていてとてもわくわくする。苦戦するイメージがあるからこそ、がつんと笑いを取っているのを観ると最高だな!となる。
本公演でほぼレギュラーネタの英語の漫才は確か2008年かそのくらいに出てきたネタだけれど、今本公演で子供や学生にめちゃくちゃウケたりする。ガッツポーズはもっと古いネタかもしれないけど、前半なかなか上手くいかなくても後半このネタで取り返せる超強力なネタになってる。最近は大名作であるところのモノマネのネタがたまに本公演に飛び込んできて、賞レースのお客さんを大笑いさせたネタが本公演のお客さんも大笑いしていてたまらない。さらに先日の「疲れた夜は笑わせて」で本公演用と銘打って披露されたネタが本当に本公演の舞台でかけられていて、すごくウケたりいまいちはまらなかったりという新しいネタならではのいろんな顔を見せてくれていて、いよいよ本公演のポイズンが今まさに熱いな!と実感する。
難しい舞台で、ウケないときもあるけれど、どうにか盛り返してみせることもある。一日3公演の中でのあらゆる試行錯誤に触れるような気分、というのは大袈裟かもしれないけれど、そうして最後に大きな笑いを生み出すところに立ち会うと、色んな疲れがふっとんだりする、これは大袈裟でなく。

私がポイズンを目当てで観ているだけなので、勿論ポイズン以外の芸人さんでも観ていればきっとその人たちなりの戦い方を目撃できる。この間はラフレクランのルミネ本公演出演を観られておお、となった。無限大ホールを拠点としている若い芸人さんのルミネ出番は何より刺激的だ。ラフレクランは4年目の芸人さんなので、そのキャリアの中でルミネで戦うことがどれほどの財産だろうかと考えてしまった。囲碁将棋やしずるのルミネ本公演初出番は何年目くらいだったか、5年目とか6年目とかだったかな。当時無限大ホールの若手にとってルミネ本公演の出番は特別なことで、多分それは今も変わらないんじゃないのかな、分からないけれど。

ここまで前段でこれからが本題。長い、すみません。
ポイズンは9月と10月になんばグランド花月の本公演の出番があった。それぞれ1日2公演を2日間。NGK自体は過去にM-1リターンズなどで立っているはずだけれど、おそらく本公演は初ではないかということで、初めてを逃したくないというライブ脳の勢いだけで、公演全てではないけれど観に行った。
NGKは、吉本の劇場の中でも特別中の特別という印象がある。他のどんな吉本の劇場と比べてもまったく違う。大きくて重くて怖い、と思っていた。過去に一度NGKの本公演を観たけれど、ルミネどころでなくお客さんの反応が正直だった。師匠方や新喜劇の、テレビでお馴染みの大きな笑いを待ち遠しく思っているお客さんは、知らない若手のちょっとやそっとのボケやツッコミにはびくともしない。私が観た公演がたまたま特別そうだっただけかもしれないけれど、そのイメージ故に、NGKの本公演=とてつもなく厳しい舞台、という図式が頭にこびりついていた。
9月の初日の一回目公演の直前は、そんな頭もあって変な緊張感で開演を待っていた気がする。それが、二番手で出てきたポイズンの漫才はこちらの予想を上回る受け入れられ方で、月並みな言い方しかできないけれど、とても良かった。ネタが終わって拍手が起きた瞬間に、これはすごくよかったんじゃないか…?と思って胸がいっぱいになった。本当に良かった。どれだけNGKでのポイズンを心配していたのかと言われると恥ずかしい話だけれど、それくらいNGKが怖かったので、ものともしないポイズンの漫才に感激してしまった。昔まだ渋谷で万博というタイトルのトークライブをやっていた頃だと思うけれど、大阪でネタをする機会があったときの二人の話をよく覚えている。そのときは確かあまりウケなかったという話になって、出番が終わって30分後にはもう帰りの新幹線に乗っていた、という笑い話をしていた。そんな話があったからか、大阪はポイズンに厳しいというイメージもあって、だから余計に心配だったのかもしれない。そんな頭で観ていた私の心配を鼻で笑いとばすくらいのしっかりとした笑いを取っていたポイズンの頼もしさたるや。

分かっていたつもりでいたけれど、やっぱり今のこの人たちは、私が勝手に思っているよりもはるかに凄いんじゃないかと思った。この大きな厳しい難しい舞台で、師匠方などの他の出演者の皆様と遜色なくしっかりと戦えている、と感慨深かった。自分の中の長年巣食っていたいろんなマイナスの記憶だとか思い込みだとかがすっかり吹っ飛ばされてしまった。無駄に長く観ているだけのファンの余計なお世話的な面倒くさい感慨さえも、きれいさっぱりと。
9月10月と何回か見たNGKの本公演、少なくとも私が観た公演はどれも見ごたえがあって、本当に戦えているのだなと実感できたのがとにかく嬉しい。10月に観たときはよりにもよってトップ出番だった。東京から来た若手がNGKのトップ出番をまかされてる!となった時、さすがに大丈夫なのかなと思ったけれど、全然大丈夫だった、トップ出番でも問題なく戦えていた。この人たち本当に凄いな、とかみ締めてしまった。
本公演は難しいからこそ、そんな舞台で笑いをかっさらう漫才が観られることは、本当に嬉しく得難い瞬間であるなあと。NGKで戦えたなら、たいていのところで戦えるじゃないか。そう思わせてくれるPOISON GIRL BANDも、それを思うことを躊躇させないNGKも、どちらも凄い。

ラストイヤーのM-1の予選を控えて、今のPOISON GIRL BANDの凄味はこんな部分でも実感できるということを、NGKの本公演を面白く観てきたこのタイミングで書いておきたかった、それだけのことにこんなに文字数を費やした私は本当に酔狂だな、と我ながら思う。

ちなみに、NGKを数回観た中でとにかくすごいと打ち抜かれたのはオール阪神巨人師匠の漫才で、あのクラスの師匠の漫才であれほどに現役感フルMAXだと思ったのは阪神巨人師匠がダントツかもしれない。何回観ても面白かった、すごいテンポでボケツッコミのカテゴリがなくて無駄もなくて15分間ずっと緩まない勢いの漫才だった。かっこいいなんてもんじゃない!
ポイズンは勿論、他の部分でも新たに感じることや初めて知ることがたくさんあった。行ってみるものだなあと身にしみた。