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POISON GIRL BAND単独ライブ『あの頃の漫才2000〜2013と新作60分漫才』

3月8日、38マイクの日に、8年ぶりとなるPOISON GIRL BANDの単独ライブへ行ってきました。
漫才だけ、しかも前半が過去の漫才、後半が60分漫才という見たことのない形の単独ライブは、ちょっとどうかしてる勢いの面白さにまみれていて、素晴らしかったです。
以下はただの感想です。少しネタバレ気味かもしれません、念のためご注意ください。


POISON GIRL BANDの単独ライブの何がそんなに素晴らしいと思ったのかというと、勿論理由は山のようにあるのですが、一番は、過去の名作を立て続けに見せられて大笑いさせられた後で披露された最新の60分漫才が、過去のどの漫才よりもどうかしていて且つ面白かったことだなと思います。

時事ネタを危うい形で弄るところから入った60分漫才の冒頭は、ある意味とても優しい形で面白く笑えるもので、勿論全てを小馬鹿にしたような阿部さんのふざけた言い分などはその後もずっと続いていくものではあるのですが、間口の広いところから入っていく印象でした。最近の60分漫才も、割とその時その時を切り取るようなアプローチが多かった気がしたのもあり、直前まで過去の漫才に大笑いしていたこともあり、今のポイズンの漫才が始まったなあ、とすんなり思ってみていた気がします。
それが、8年前はいいとも青年隊だったと大嘘(ボケですらない)をつきはじめるところから少しずつおかしくなっていって、阿部さんが「俺はまぼろしと呼ばれていた」と文字にするとますます意味不明なことを言い始めたあたりはもういつものポイズンの60分漫才の本領発揮!というイメージで、ずっと笑っていたのですが、本当に怖ろしかったのはさらにこの先だったという。

「湿っぽくなっちゃいましたね」というひとことから、「湿度高くなりましたね」となった挙句にルミネがサウナになるなんて、誰が想像できるのか。そこからの何が凄いって、この場がサウナであるだとか、外に水風呂があるだとか、そういう本来は「なんでだよ」で済まされるはずの設定の上に、吉田さんがすっくと当たり前のように立って漫才を進めるようになってしまったこと。それまではまだ辛うじて吉田さんは客席の人達に近い立場で漫才に存在してくれていたのに、ここから知らない人みたいにありえないことをありえないと言ってくれなくなってしまったので、そうなると「サウナ」「水風呂」「外の畳の広間」という舞台設定がまかり通ってしまうことに。阿部さんの奇妙な言動の数々にはツッコミという役割を果たしてくれるのに、捩れていく世界そのものは全てそういうものとして進めていくから、見ているこちらの頭がどんどんおかしくなるしかないです。
漫才の中で空間が捩れてしまうのは、過去のポイズンの60分漫才においては何度も体験していることですが、今回はそれがあまりにも自然にゆっくりと、冒頭からポイズンの世界に慣らされて馴染ませられるように進められていった印象です。普段はポイズンを見る機会の少ない人も多かったはずの満員のルミネの客席を、30分だか40分だかの時間をかけて、少しずつ少しずつ、それはもう怖ろしく用意周到に綿密に、ポイズンが作り出す異次元に引き込んでいったのだなあと思います。蒸し暑いですね、無理しないで外の水風呂に入りに行ってくださいね、と言い続ける阿部さんと、相方が徐々に宗教色強めの演説には怖いよ駄目だよとツッコミを入れてくれてもここがサウナで我々客は全裸であるという設定については何一つ否定をしない吉田さんに、我々はルミネじゃないどこかの変な異空間にぶん投げられたんだな、と。
サウナで宗教色強めの演説を聞かされた後で、「これから皆さんには移動してもらいます、東南口に大きなバスが2台用意されてます」と言われたときに、本当にバスがあるんじゃないかと少しでも思った人はきっと少なくないと思います。本気で用意してるんじゃないかという恐怖と、本当にバスがあってほしいという願望とが私の中では一斉に沸いて出てきましたから。バスに乗って、あらゆるスーパー銭湯めぐりをするという阿部さんの話を聞きながら、吉田さんはその時もスーパー銭湯をハシゴしまくること、自由時間が少ないこと、バスが次々にバスじゃないものに変化していくことには言及してくれても、やっぱりバスツアーそのものの異常性には何も言ってくれませんでした。今となっては舞台上の二人はあの時の客の敵だったんじゃないかと思います。
最終的に舞台上に250人のボケと250人のツッコミがいてユニットネタをするという段に至っては、舞台上に500人のボケとツッコミがいるということが大前提でネタが進んでいくのだから本当に気が狂っているとしか。吉田さんが言及するのはあくまで「250人もいるのにそれ?」「そいつおかしいだろ」ということであって、我々には見えていない500人が舞台上にいるということを否定する人はこの空間においては誰もいないのだから、そりゃあ見てて頭おかしくなりますし!どうなってんだって思いますし!

漫才でそんな体験ができるのは、本当にポイズンの60分漫才だけです。何回か前の60分漫才について、吉田さんが「違う世界に連れて行ってあげます」と語っていたのを思い出します。それをポイズンは間違いなく狙ってやっている、狙い済まして客を異次元に吹っ飛ばしているんだということが何より怖ろしいです。ポイズンは漫才の可能性を極限まで引き出そうとしているんじゃないのかな、なんてことさえ考えるほどに、凄いことだと思います。
何より凄いなと思うのは、これらのとんでもない所業が、常に笑いと共に生み出されているという点かもしれません。お笑いのライブなんだから当たり前だろうと言われてしまったらそれまでなのですが、ずっと馬鹿みたいに笑ってました。阿部さんは延々気の狂ったことを言っていて、吉田さんはシンプルながらも鋭いフレーズでいろんなものをぶった切っていて、尋常でなく面白い漫才という形を絶対に逸脱しない中で、面白いという以外の偉業が同時に生み出されていて、そんな狂った全てがひっくるめて全部面白い、という素晴らしさ。嘘みたいなことばかり書いてる気がしますが、この日のポイズンの60分漫才はそういう60分漫才でした。凄いしかない。

今現在の、現時点でのPOISON GIRL BANDの漫才が、何より気が狂っていてどうかしていること、何より他と似たところがないこと、何より他所では見られない様相を呈していること、何より面白いと思えるということは、凄いなと。こんなに凄いことはないなと心から思います。ポイズンは今までも散々他では体感できないような異次元の漫才を見せてくれていたのに、その上で今が一番面白いということは、これからも面白いんだろうなと何の疑問もなく思えるということに他ならないので、客席で見ている者としてこんなに幸せなことはありません。

そんなことを言いながら、60分漫才の前に披露された過去の9本の珠玉の漫才も当然のことながらとんでもない面白さだったのだから、本当にどうかしてました。
なんだかんだ9本とも見たことあったのですが、どれもこれも絶妙な切り口の面白さで信じられないなーと思わされます。「スフィンクス」を初めて見たときのなんだこれ!感がまざまざと思い出されたり、「中日」が当時のプロ野球の状況そのままに披露されていた様子に痺れたりする中で、改めて思い知らされたのは「SHIMANE TO TOTTORI」の奇天烈具合です。あれだけポイズンならではの奇妙な漫才が並んだ中で、それでも異彩を放つ異常さはちょっともう本当に凄い。あのネタは当時のM-1を見据えた新ネタライブ「4分×2本」でちょうど今くらいの季節に出てきたネタだと思うのですが、初めて見たときの衝撃はやっぱり未だに忘れられないし、こうして久しぶりに単独ライブの中で見ても常識を逸しているなあと思いました。こんなに見る側に不親切な漫才もなかなかないだろうな、とも。
それから、10年以上の歴史を漫才で見ていく中で、芸歴を経て現在に近くなるほどにボケの声が大きくなっていくということがとっても面白かったです。阿部さんが大声出すのって本当に面白い、なんだろうあの大きい声出すだけで面白いっていう存在感。大きな声で、打製石器のようなシンプルで重いボケでガンガンぶん殴られるのが楽しくてしょうがないです。
吉田さんのツッコミも、過去のネタはちょっと練ってたりしてとてもオシャレで、それもとても面白いんですけど、現在に近づくにつれてボケの声の大きさに比例するようにどんどん装飾がそぎ落とされていくのも楽しいです。ポイズン二人から大岩を素手でぶつけられてるイメージ。それが本当に面白いです。

大枠は勿論、細かいところで面白いフレーズや展開も山のようにあったのですが書ききれないですしそもそも覚えてないことも多いのが本当にもどかしいです。
個人的に好きでしょうがなかったのは、250人のボケと250人のツッコミで形成されたユニットのユニット名が「国会」だったことです。

そんなわけで、過去の漫才と現在の漫才、全部が全部面白かったというとんでもない単独ライブでした。それをやってのけたのがPOISON GIRL BANDであるということが何より誇らしく嬉しいです。唯一無二の漫才師はこの世にたくさん存在するけれど、ポイズンの唯一無二っぷりはちょっとタガが外れているなあと思います。それもまた誇らしいく嬉しいです。
やっぱり250人と250人じゃやれないよ、じゃあ二人でやるしかないですね、二人でやっていくのでこれからもよろしくお願いします、と言われ、たまらない気持ちになりました。これからもまだまだ二人の漫才見られるんだなあ、と実感できることが本当にありがたかったです。これからのポイズンにも楽しみしかないです。

ちなみに次は7月の60分漫才。私が知る限り、今までの60分漫才のネタがそれ以外の場面で披露されることはなかったので、60分漫才のネタが見たかったら、60分漫才を見るしかないのです。一回だけのためにあれだけのものを作り続ける人たちは多分そうそう居ないです。ということは多分、ポイズンは消えていこうがこの先使えなかろうが、60分漫才というものがやりたいんじゃないのかなと思います。60分漫才という形を愛しているのかなと思います。全て勝手な思いですが。
なので今後も続けて見ていきたいですし、見に来る人がたくさんいたらいいなあと思います。


【お笑いナタリー】POISON GIRL BAND、“あの頃の漫才”と新作で観客を圧倒 http://natalie.mu/owarai/news/111584