箱雑記ブログ

色々まとめています

神保町花月『犬G』

見てきました。だいぶ今更ですが、一応感想を。
カメラが入っていたかどうかは分からないのですが、以下はネタバレなのでその点ご注意ください。



同窓会で再会した中学時代の同級生が、さまざまな理由で銀行強盗をたくらむ。その中でのやりとりとか、どんでん返しとか。簡単すぎますがそんなお話。


一緒に見た友人や、ネットで見かける感想などで軒並み語られている『頭蓋骨を抱きしめて』と近かったから云々の話、私も同じことを思ったのですが、多分劇場側は誰に何月のどこの公演の脚本を書いてもらう、というのを最初にスケジュール組んで、内容は脚本担当の方任せ、ということなんだろうな、と予想。そりゃ短期間でかぶることもあるよね。かぶったと分かった頃にはスケジュールは動かせない状況なのだろうな、と想像してみました。その場合、書き手さんの書きたいものを好きに書かせてくれている、という点では嬉しいけれど(その結果として『凛』のような芝居に出会えたのかも)、同時にこういう弊害もあるのかな、と。全部想像ですが。
そして、たとえば『頭蓋骨を抱きしめて』を見る前に『犬G』を見たとしても、多分「あまり自分の中に残ってくれなかったなあ」という感想は申し訳ないけど変わらなかっただろう、というのも、一緒に見た友人との感想であります。本当は「こっちはこっちでよかった!」と言いたかったし、言う用意もあったのですが、それだけにちょっと残念。


おおちさんが女の人役で出てきた瞬間、これは芝居じゃなくてコントなのかも、と思ったのですが、*1後で聞いたらどうやら以前ダイノジさんメインでやったユニットコントの焼き直しだったそうで、当たらずとも遠からずだったのかな。
伏線というか、いろんな細かい過去の話だとか、各キャラクターの関係性や出来事(池谷さんと熊谷さんとか、押見さんとようこちゃんとか、さとことか、教室に入ってきた犬とか)など、色々と出された情報が最終的に必然性のない情報として置き去りにされていた印象なのがとても気になってしまいました。そこらへんが気になってしまうのは、中には大事な情報もあって最終的には押見さんの手によってきれいに片付けられるものもあったからかもしれませんが。


後ろ向きなことはあまり書かないスタンスでいますのでこれくらいにして、やっぱりここはね、押見さんのことを書かないと!(笑)
私は金曜と土曜の2回目の公演を見に行くことが出来たのですが、金曜ももちろんよかったのですが、土曜に見た押見さんが凄まじく良かったです。私は、金曜の方が前の方の席で、土曜の方が後ろの方の席だったにも関わらず、土曜の公演での押見さんから伝わるものの方が凄みがあった気がします。
『THE MOMO-TARO』のときに、回を追うごとに押見さんの芝居がよくなってる、と興奮気味の私でしたが、今回も後の回の方が良かったのを見て、やっぱりスロースターター?とどうでもいいことを思ったりしました。いや、もっと良い回がもっと前にもあったかもですが。
前半の、気弱で苛められっこの押見さんは非常にそれっぽくて、陰で雰囲気がとてもはまってて、その時点でぐっと引き付けられたのですが、終盤の変貌ぶりは素晴らしかったなあ。
私が大好きなのは、銃を向けられて震える様と、最後本庁の刑事である押見さんが、鈴木先生のことを語ってから見せる表情。特に後者の表情は気持ちよく震わされました。暗い照明も相まって、押見という役の中の深すぎる闇がしっかり見えたような気になれましたから。撃たれたようこちゃんに向かって激昂する様もインパクトありました。
土曜のカーテンコールでおおちさんが「あの時押見が本当に怖いんだよ」「俺泣きそうになってるんだから」と言ってましたが、客席で見ててあの迫力なのだから、一番間近にいて真っ向から罵られてるおおちさんが怖がるのはしょうがないのかも(笑)


今更改めて言うのもなんですが、舞台の上で芝居をする池谷賢二のファンなのです。ベルベでもそうでしたが温泉きのこでもそうでした。『THE MOMO-TARO』を見て以来、犬の心が出る神保町花月のお芝居を見に行くときは、漏れなく池谷さんのお芝居をがっつり見られることを、なんだったら一番の楽しみにしているところがあります。なので、その点ではちょっとだけ消化不良。熊谷さんとのやりとりのシーンあたりはさすがでしたが。熊谷さんも、実は凄くいいんだよなあ。昔のヨシモト無限大のアドリブ芝居とか思い出してしまう。乙女少年団もそうだったなあ。無心な熊谷さんのお芝居はとてもシンプルで、それだけに真っ向から胸にきます。
池谷さんは、とにかく華があるのだと思わずにいられませんでした。いろんな仕草と決めポーズが全部絵になる。踊りをやってる人って基本的に体の使い方とか見せ方が上手いんですけど、それに近いものを池谷さんに感じます。
あと、最近よく書いてることの繰り返しになる気がしますが、押見さんが脚本やその中での小さな心の動きを材料にして、細かい説得力をたくさん積み重ねて丁寧にイメージを作り上げている、理論とスキルを感じる役の作り方という印象なのに対して、池谷さんはそういう積み重ねとか以前に、ごっそり心の中とか頭の中を別の人にすり替えてるような、感覚的な役の作り方という印象なのです。あくまで印象なのですごく的外れなことを言ってる可能性もありますが。
なんとなく、押見さんは役作りとかそういうものに器用なタイプには見えなくて、ひとつひとつを自分の中で噛み砕いて納得して、そうやってじっくりと隙のない感情表現を作っていく、みたいな気がするんです。池谷さんは、こつこつ作るとかに縁遠いイメージ(笑)あまり深く考えることなく、すごく器用にすっぽり中身を別の人に出来ちゃいそう。
どちらにも得がたい魅力があって、今回は特に押見さんがその魅力を大いに発揮する役だったと思うのですが、そろそろまたがっつり池谷さんが芝居をしているのを見たいな。最初に見た神保町の池谷さんが桃太郎だったから、ちょっとやそっとじゃ満足できないのかもしれません・・・(笑)


ダブルキャストの芦沢さんと金成さん、私は幸運にもどちらも一度ずつ見る機会に恵まれたのですが、どちらもすごく魅力的でした。
金成さんが出来る人なのは、おさむショー(私は数回しか見てないのですが)などを見ていても分かっているので、すごく安心して見てました。押見さんが撃たれてから口々に押見さんに対する罵詈雑言を言うシーン、「ゲームだよ」のあたりはものすごく様になってました。重厚感があるんですよね。さすが。前半のわちゃわちゃでも大忙しで・・・というのは芦沢さんも一緒でしたね(笑)
芦沢さんは、関西弁を生かして「関西から転校してきた」という設定がついていた気がします。芦沢さんは見た目がとてもしゅっとしていて格好がいいので、スーツもすごくお似合いで、舞台映えするんだなーと思いました。金成さんに比べて見た目が優しくてまろやかな印象のせいか、同じく押見さんが撃たれた後のシーンで「ゲームだよ」と笑いながら言う様子は、ちょっと怖いギャップがあって相当素敵なことになってました。コードネームを決めるシーンでの「俺が決める。俺が長嶋だ」の強引さも、あの見た目と立ち振る舞いなのでどきっとなるんです。芦沢さんのお芝居をちゃんと見るのは初めてだったのですが、すごく素敵だったので、またぜひ神保町の舞台で見てみたいです。


あべさんは、芝居の舞台で見られるあべさんの凄みを、今回はあまり感じられなかったのがちょっと残念。インパクトはあるんですけれど、いろんな意味で(笑)ただ、がっつり芝居してる!という感じではなかったので、もったいないなーと。
それは福島さんも同様で、熊谷さんと違ってお芝居をする福島さんは初めてだったのでちょっと楽しみにしていたのですが、次の機会があるならこれまたがっつり芝居してるのが見たいなーと。
座長ダイノジさんは、大谷さんは脚本演出を担当している分、芝居の中ではバランサーという印象でしょうか。そういえば、大谷さんの役だけが白髪で老けている理由が後半何かにかかってくるのかなーと思ってたのですが、深読みしすぎました。
おおちさんは、女性の役でしたが、妙に違和感がない・・・(笑)自然というわけではないんですけど、なぜか違和感がないという意味での可笑しさがありました。


そんなところでしょうか。
私が神保町花月で何を楽しみにしているかって、普段漫才やコントやその他色々なお笑いの場で見せてくれるのとはまた違う芸人さんの面や力量に触れることができることなのかもしれません。だからバカの一つ覚えみたいに芝居芝居と言ってしまうんです、きっと。それもある意味良し悪しとは思うのですが、結局のところこんなに足しげく通ってしまうのは、そういう意外性が魅力というのは大いにあると思いました。
あとはもう、いいお話に出会いたいという、普通の欲求もありますが。自分がいいなと思うお芝居に、自分が好きな芸人さんが出てたら、それは絶対に嬉しいし楽しいので(笑)

*1:もちろん普通のお芝居でもたまにありますけど(野田秀樹氏とか、という大きすぎる例しか出てこなかった)男性がやる女性の役が、ちゃんと女性に見えるか、見えないところを笑うのか、が双方の差かな、と。