箱雑記ブログ

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神保町花月『コーポきよはる804』

複数回見に行っているのですが、千秋楽も終わったことだし今更のように感想。長いです。
どうやら今回もカメラが入っていたそうなので、ファンダンゴTVでの放送の可能性があるようです。もしも放送を楽しみにしている方がいらっしゃいましたら、ネタバレになっていますのでご注意を。



あらすじをざっと書こうとしたんですが、ちょっと書きにくい。たまたまひとつの無用心な部屋(実は無用心なわけではなかったのですね、話を最後まで見ると分かる点がこのお話は多い)に、たまたま二人の泥棒が時間差で入って、そこにたまたま刑事が凶悪犯の張り込みのためにやってきて、刑事に疑われないために泥棒が嘘を重ねてさらにそれにもう一人の泥棒がのっかって嘘を重ねて、そうこうしているうちに新たな人物が現れてごたごたと・・・という感じ。説明下手ですみません。
グランジが参加していたからか、内容的に『ソビエト』と近い雰囲気を感じました。必死に嘘を重ねていく様が可笑しいのは三谷以来の私の好きなパターンだったりします。
デスノートが3巻だけなかったり、玄関の鍵があけっぱなしで携帯忘れっぱなし、ギターは立てかけててウクレレは床に放置、の理由が全部最後に分かるあたりも、結構すっきりできて嬉しかったです。全部が全部、本来の部屋の住人(高峰くん)とはかかわりのないところで起こっている、というのも、全部終わってから考えると不思議に面白い。
要所要所で出てくるボブ・ディランの「風に吹かれて」は、あれを聞くと私なんかは無条件で『アヒルと鴨のコインロッカー』を思い出してしまうのでした。もはやイコールで結びついている感があります(笑)有名だし素敵な曲だから、みんな使いたがるのも分かる気がする。ただ、最後の大木警部補の「答えは風の中、か」が結局何を言いたいことだったのかは、私が頭が回らなくてよく分かりませんでした。単純に真相は闇の中ということでいいのでしょうか。
ともあれ、やっぱり脚本て大事だな、としみじみ思ったのでした。何も考えずにひたすら楽しむことに没頭できたことが、とても嬉しかったので。


ちょっと物足りないな、と思った点はいくつかあって、ひとつはわりとそれぞれのキャラクターが普段目にする出演者の皆さんと似通っている点。がっつり芝居が出来る人たちなので、がっつり芝居をしているのを見たかったな、という単なる観客のわがままです。それとは別に、五明さんは『ハッピーな片想い』『ソビエト』に続いてまたしてもおじさん役だったので、そろそろおじさんじゃない役も見てみたいな、と(笑)ものすごく出来る人なので、おじさん役をやっていると無理なくおじさんに見えてくるから見ごたえは抜群なのですが、やっぱり違う面で魅力を発揮する五明さんも見てみたいわけです。
あと、見ててちょっとだけやきもきしたのが、うまくしたらいつでも強盗逃げられそうだなーというのと、竹本(押見さん)がなぜ一度も宮口(遠山さん)のことを疑わなかったのか、という点。宮口がそばつゆ持ってきたのって、竹本が気付く伏線だと思ってました。結局間違えたというだけだったのかな、あれは。
神宮寺(鬼奴さん)が「高峰さん呼んできましょうか」と言って外に出て行くのを刑事が止めないのとか(少なくとも二人いたら一人ついていった方が・・・とか)というのもちょっとだけ気になりましたが、こうなるともうどうでもいいような小さなことです多分。ただ神宮寺が外に出ちゃって戻ってこないから、「答えは風の中」ってことなのかな、と考えると、ここがちょっとだけ引っかかるのでした。
この手のお話は、どうしても小さな気になりどころが出てきちゃうものなのかもしれません。これはお話がどうのというより、ひとえに私の性格です。


見てて思ったのは、どうやら遠山さんのお芝居が私はすごく好きらしい、ということ。神保町花月グランジを見るのは3回目だというのに、やっとそれに気付く自分が非常に今更でお恥ずかしい。今回の、粗野で乱暴な若者、みたいな役柄の遠山さんが、どうやら相当好みだったようです。何気なくしっかり役に入っていて、その上でその役だからやるであろう仕草とか表情とかの繊細な動きがとてもよくて。お友達の感想*1での遠山さんに関する記述を見て気付いたのですが、私はどうやら遠山さんの動きや仕草がとても好きらしい。そういえばグランジのコントでも、やたらと舞台を広く使って暴れたりするときの遠山さんていいなあと思っているところがあるのですが、どうやらそういうことらしいです。
部屋の中で、刑事二人と見知らぬ泥棒と、自分の4人でいなくてはいけない間の、ソファーに行儀悪く腰掛けてずっといらいらいらいらしながら落ち着きのない様子の宮口をやたらと見ていた記憶があるのですが、そういうことなんだな、きっと。粗野な役にぐっときたのは、乱雑で大雑把な大きな動きをいっぱいしてくれたからかも。あと、追求されて逃げ出すときの身のこなしとかも、いいなあと思います。


遠山さん以上に出ずっぱりだったのが押見さん。今回見ていて、押見さんのお芝居は、役になりきるというより、感情の起伏とか表情の抑揚が上手ということかな、となんとなく思いました。『THE MOMO-TARO』でもそうでしたが今回も、キャラクターは限りなく私達が舞台でよく見る押見さんに近くて、別の人を演じている、という感じではないですけれど、たとえば刑事に怪しまれたときの苦虫を噛み潰したような表情とか、焦ってなりふりかまわわない様子とか、一度逃げ出したのに捕まってからの、「僕はまだ何も盗ってませんよ」のときのふてぶてしさとか、そういう表現の仕方が豊かなのかもしれません。気持ちをこめるのが上手ってことでしょうか。表現するのが上手いのかな?よく分かりませんが、そういう印象です。芝居が上手いというより、見せ方が幅広いというか、なんというか。


五明さんも出ずっぱりでした。上にも書きましたが、五明さんはまたしても40過ぎてるベテラン刑事役。神保町花月でのベテラン刑事率は3分の2、おじさん役率に至っては100%です(笑)上手いのでこなせちゃうからすごいんだと思うのですが、出来れば今度はものすごーくかっこいい役だとか、ちょっと気弱でおどおどするような役だとか、そういう五明さんも見てみたい。ガッツもそうでしたが、以前のルミネでのユニットコント(そういえばあれも押見さん作だったような)での無口で無表情で渋くてかっこいいヤクザな鬼役とか、見てみたいなあ(笑)
五明さん扮する大木警部補はものすごく好きでした。どこか不真面目でのらくらしているのに、油断ならない気配も常に同じくらい感じさせる、食わせ者の雰囲気。ああいうのが絶妙なバランスで見せられるのって実はすごいんじゃないのかな、と勝手に思っている私です。すごく器用だし、貫禄もあって安心して見ていられる。
竹本が卒業文集のくだりで藤原だと名乗ったときに、おや?って感じでまず竹本を見て、それから静かに新聞に目線を戻してちょっと何かを考えたりしてみせるのとか、その静かだけれど気の抜けない様子がとても素敵。
あと、途中で押見さんと遠山さんと五明さんで、ちょっとした無茶振りで笑いをとる、お芝居というより素に戻った芸人さんのコーナーのような時間があるのですが(私が見た数少ないプラン9さんのお芝居にもあった要素)、ここでの五明さん、私が見た回ではほんとんど滑り知らずでした。素晴らしい。千秋楽は遠山さんの逆ミラクルを補って余りある芸人ぶり(笑)


大さんは・・・大さんでした(笑)初日では「ちょっと甘ったれな部下、でもちょっと壊れ気味のゲイでバイ」くらいで説明がついたのに、千秋楽では「甘ったれで鈍くさくて使えない部下、でもゲイでバイでマザコンでトラウマ持ち、壊れすぎて時々上司も怒鳴りつける」というすさまじいキャラがついてました。やりすぎだ!と思いつつも、気がおかしくなるほどにわけの分からない迫力を増している大さんだったので、あれはきっとすごく良いってことなんだと思いました(笑)
すごく気になったのが、「風に吹かれて」が大さんが歌うとメロディおよびリズムが原曲と明らかに違う点(笑)あれはわざとなのか、大さんの天然なのか。


池谷さんはピンチヒッターというかワンポイントブロッカーというか、とにかくピンポイントで出てきてストーリーとは関係のない笑いを盛大に振りまいて帰っていく、というある意味美味しい役でした。あのビート たけしを初回で見たときのインパクトたるや・・・(笑)
池谷さんのお芝居が見たい!というのが、実はグランジ班での私の目的のひとつだったので、そういう意味ではもったいないかな、と思ったりもしましたが、あれはあれで、池谷さんにしか出来ないことを見ることが出来た、という点では貴重な体験でした(笑)あの脱力感はたまりません。さすが池谷さん。目がきらきら。眩しい。すごく眩しい。初日にカーテンコールで遠山さんが「たけしさんなのに目がきらきらしすぎなんですよ!」と言ってましたが、本当にそのとおりだった・・・(笑)
次の機会には、あの根っこから完全にその役になっちゃう池谷さんのお芝居を見たいものです。


鬼奴姐さん(つい姐さんとつけてしまいたくなる)は、中学の同級生にストーカーをしているちょっと病んだ女性という、結構難しそうな役柄だったのですが、もう本当に、素晴らしく怖くてそれっぽくてどきどきしました。お芝居に関して言えば、乙女少年団での鬼奴姐さんしか見たことなかったので(それもキャンディーガールの)、あんな感じの役をあれほどに隙なく無理なく演じていらしたのを見て、感激です。だって本当に怖いんです。
誰もいない部屋で高峰くんに呼びかけて呼びかけて、返事がない瞬間に怒鳴るときの起伏とか、携帯電話を投げ捨てる自然なのにちょっと危ない様子とか、すごく好きだったのですが、一番好きだったのは、刑事と泥棒×2人がいる部屋に戻ってきた彼女が、「高峰さんですか?」と警部補に問われて「あ、はい高峰です」と答えるときに、一瞬すごく幸せそうに微笑むんですですが、それが絶好調に怖くて怖くて本当に好きでした。鬼奴姐さん、すごく上手いなあ。


スリムクラブもすごく良かったです。池谷さん以上にワンポイントブロッカーの内間さんは、大さんに引きずられるように初日と千秋楽ではキャラの立ち具合が変わっていて、可笑しくて可笑しくて。内間さんを見ていて思ったのですが、あのお顔の形、ものすごーく独特ですよね?(笑)なんであんな形なんだろう!と思ってずっとまじまじ見てしまいました。
真栄田さんは、鬼奴姐さん以上に狂気を漂わせる役どころでしたが、短い出演時間ながら、池谷さんとは別のベクトルですさまじいインパクトでした。へらへら笑って「鳩捕まえた」と言っていたと思えば、マンションを間違ったことに気付いてクローゼットを引っかき・・・あの怖さは、ホラー好きにはたまらないです。
神宮寺に「俺のこと知ってるみたいだね?」と笑っていた次の瞬間、スイッチが切り替わるみたいに無表情になって一直線に神宮寺に向かって歩いていく様が、これまたすごいリアル。鬼奴姐さんが、なるべく関わらないように刺激しないようにと対応している感じが余計にリアル。最後のシーンはたくさん怖がらせてくれる要素が多くて、大好きでした。


最後は、エンドロールが流れる中、北林(真栄田さん)を殺してしまった神宮寺が、北林の巨体を何とかクローゼットに隠そうとしているというもの。このエンディングはオシャレだなあと、初日見たときからお気に入りでした。また真栄田さんは体が大きいので、鬼奴姐さんが必死でその巨体を動かそうとしても動かなくて、引きずったり転がしたりする様がちょっと笑いを誘いつつ、その死体を引きずることが笑いを誘ってしまうという事実に改めてぞくぞくしたり。
千秋楽では、多少エンドロールが終わってからも暗転せずに時間があったせいもあり、初日に比べたら格段に手際がよくなっていた鬼奴姐さんが、見事クローゼットに死体(=真栄田さん)をしまって鍵をかけることに成功してました。鍵をかけた瞬間、客席に背中を見せたままガッツポーズを見せてくれた鬼奴姐さんに、満員のお客さんの大喝采。素晴らしい(笑)でもシュール(笑)


そんなところでした。思い出したら追記する方向で。とりあえず今回の公演は、自分が遠山さんのお芝居がやたらと好きだと気付かされたことが収穫、かもしれません。