箱雑記ブログ

色々まとめています

最近読んだ色々。

逃亡くそたわけ (講談社文庫)

逃亡くそたわけ (講談社文庫)

今更のように読みましたが、開放感と虚無感を激しく行き来する感じがなかなか壮絶。主人公の女の子の精神のアップダウンにとことん付き合っていくように読んでいたので余計でした。
精神科から逃げ出して高速も使わず車で逃げていく女と男、なんて、完全に私にとっては非日常なんですけど、お話全体に地に足がついてる印象があって、非日常と切り離せない感じがあるのがまた面白い。この人の書くお話における、人と人との距離感、接し方の不思議な色合いは、読んでてじわじわとくるものがあります。がっつり鹿児島弁と、名古屋弁が嫌での標準語との対比がめまぐるしい。主人公がものすごく率直に「私は頭がおかしい」くらいのことをいつも言うから、そのたびにずしずしきたりして、忙しかったです。


9人の作家が源氏物語の9つの帖をそれぞれ書き上げるという企画本、トリビュート本とでも言うべきか。
とにもかくにもタイトルのダサさ加減がすごくて、本屋で手には取ってみたものの、本気で買うかどうかを迷ったほどです(笑)もっといいタイトルつければよかったのに。と書いた後で、お友達にサリンジャーの本でナイン・ストーリーズという自薦作品集があるがそれのパロディなのでは?との指摘。成る程。無知が露呈しました。反省。
読んだことのない作家さんも多い中で、何が目当てといったら桐野夏生の「柏木」なわけですが、なんともらしい女三の宮。ちょっと自分の中にはなかった女三の宮像だったので面白かったです。皇女としての女三の宮に凄みを感じることなんて一度もなかったなあ。この柏木における光源氏は、若い女三の宮にとっては年老いて息苦しく煩わしい存在で、そんな源氏との生活における唯一の反旗として柏木と交わるけど、柏木は柏木で「皇女」という地位に夢中なだけのつまらない男だった、ともう手加減なし。そんな女三の宮自身も、皇女という地位にどっぷり浸かった女で、閉塞感がとんでもない。面白いです。
一番おお!と思って好きだったのは角田光代の「若紫」。個人的に若紫の帖が好きだというのもあるんですが、設定のアレンジの仕方と、その中で源氏と紫の君との関係性がどこまでも源氏物語で、その上でさらに奥の方を掘り下げていく感じがとにかく好みでした。自分には願ったことが現実になる力がある、と思った少女が、実はそれを持っているのは自分ではなくて男=源氏の方で、自分には何一つ選択権などなかったのでは、という可能性に気付いて慄然とするあたりとか、ぞくぞくしました。ちゃんと、実際の「若菜」あたり?の紫の上の不安に連なる感情がきちんと見えて、これはいいなあ、面白いなあと嬉しくなりました。角田光代、実はちゃんと読んだことがなかったのだけれど、今度ぜひともちゃんと読んでみようとと思いました。
あとはもう、町田康がやりたい放題ですごく面白かった(笑)もともと「末摘花」が源氏物語の中ではちょっと滑稽でポップな帖だから、余計に良かったのかもしれないです。何が面白いって、頭中将のキャラクターが(笑)あれはずるい!全編通して町田節である上に、やっぱりきちんと本来の源氏物語の源氏と末摘花であるという点が揺るがないのが素晴らしい。
江國香織の「夕顔」は、夕顔が江國らしいのかその逆か、えらくしっくりきてました。夕顔が強力に可憐。直球でした。小池昌代の「浮舟」も直球。金原ひとみの「葵」は、現代版アレンジで、妊娠出産小説としては相当面白いのだけれど、これをわざわざ源氏と葵でやる必要あるのかな?という疑問。源氏物語としてのうまみが少ない気がして、源氏物語好きとしてはちょっと物足りないかも。
それにしても、ほぼ現代語訳に近いものから完全なるアレンジまで、多岐にわたっているので、企画側が作家さんに依頼が行ったときってどういう風に書いてくれとか指示はあったのかな?という、どうでもいいことがずっと気になってました。
私の源氏物語の入りというのは例にもれず「あさきゆめみし」なわけですが、これ読んだら読み返したくなってきました。


夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

文庫で出てたので再読。やっぱり可愛かったり楽しかったり奇妙だったりが盛りだくさんでずるいと思う(笑)
今年は再読もカウントしていっちゃいます。