箱雑記ブログ

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「夏から夏へ」(佐藤多佳子)

佐藤多佳子の本が大好きなのですが、この人が書いた400メートルリレー(4継)のドキュメント本を本屋でうっかり見つけまして、購入。
折りしもここ何回かの五輪の中で一番真剣に時間を割いて見た北京五輪にて、見事に銅メダルを獲得したあの4継の本です。そんな絶好のタイミングもあってがっつり読んだのですが、読み終わって、これは五輪前に読んでおいたらもっともっと良かったなあ!と思いました。
とにかく面白くて面白くて、2日くらいで夢中で読み終わってしまった。こんなに前のめりで本読んだの久しぶりってくらい。早く読み終わりすぎて(私はあまり読むのが早くないのです)、最後の方はもう終わっちゃう!ともったいなくてしょうがなかったです。
私はスポーツもののドキュメント本て数えるほどしか読んだことがないのですが、多分、いわゆるスポーツもしくはスポーツ選手のドキュメント本としては、主観の入り方とか感じ方とか伝える方法論がだいぶ違うのかな、と予想。読む人が読んだらウェットになりすぎとか、感情入りすぎとかいう感想も出てくるのかもしれないです。が、スポーツ記者や専門家ではない、小説家としての作者が、自分に出来る限りの伝え方で綴っているんだな、という、その心意気が伝わってくる気がして、個人的にはあまり気になりませんでした。もともとこの人の書くお話が好きだというのも、大いにあると思いますが。
何より、サッカーや野球も好きだというこの人の、アスリートという存在に対する絶対の敬意が隅々まで行き渡っていて、それが気持ちよく読むことが出来た一番の理由かもしれません。自分には手も届かない、想像もできない世界をひたすら真摯に、貪欲に、ひたむきに戦っていくアスリート達を、どこまでも尊敬して、彼らが作り出す記録という名の結果と同時に、その日々の努力や孤独な戦いも、全部ひっくるめた全てがかけがえのない偉業であるということが、この本にはいっぱいに詰め込まれている。それが素晴らしいなあと、そう感じてやみません。これって、スポーツだけじゃなくてあらゆるジャンルに対して言えることだなあというのも思った。芸術でも、音楽でも、本や漫画でも、お笑いでも。見ているこちら側に感動や衝撃を与えてくれる人達への敬意という意味で、同じことだな、と。本の中で、作者が朝原選手に対して、日々の積み重ねに対して「一体どれだけ走ってきたのだろうか」というところがあるのですが、似たようなことを、例えばカリカのコントを見るたびに家城さんに対して思ったりするので。
テレビで「プロフェッショナル」とかを見ていても感じることですが、あらゆる世界のトップに立つ人達の、他のどんなものや時間や欲求も犠牲にしてのける情熱と、それが好きだという気持ち、何かを追求していく貪欲さ、新しいものを切り開いていく勇気、それを行動に移せる意思の強さって凄まじいなあと、この本を読んでいても思いました。想像を絶する世界だ・・・。
普段は個人競技のアスリートが、4継ではチームとなって、個々では太刀打ちできない他の国と対等に戦っていくというのが、リレーの奥の深さなのかなーと思います。バトントスに対する研究とかも面白い。たった20mのバトンゾーンの使い方を、この上さらに科学して速さを追及しようとしていたり。あと4継を支える5人目のメンバーの話も、かなり胸に迫るものがありました。
あと、日本の記録を塗り替えていくような、国内でトップレベルの選手は、要するにそれ以上のさらなる速さを求めるためには、国内では誰も手をつけていない手法やアイデアをどんどん練習に取り込んでいかねばいけないと。自分よりも速い人間が過去の日本人にはいないのだから、日々自分達で考えて、新たなものを取り込んで、試していかなくてはならないという点は、こうして知ってみると当たり前のことのようだけれど、何も知らず考えないで見ている側には言われるまでは気付けない部分だなあと思います。凄まじい世界だ。
とにかく面白かったです。世界レベルの競技者の人の話というのは何でも面白いけど、陸上競技というのは自分の知らないジャンル過ぎて、その奥の深さに圧倒されました。すごいなあすごいなあと思いっぱなし。
北京での銅メダルを、また本にしてくれないかな、と単純に思いました。と同時に、「一瞬の風になれ」を改めていちから読み直したくなった!

夏から夏へ

夏から夏へ