箱雑記ブログ

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「文壇アイドル論」(斉藤美奈子)

いつ読んでたんだか・・・夏の終わりくらいだった気がしますが、今更ながら感想。
いつものごとく姉のお勧めで読んだ本ですが、すごく面白かったです。普段評論とか読まないので、これがどのくらい優れた本だとかそういう観点は全然分からないのですが、読んでてひたすら興味深く面白かった。予備知識がある分「モダンガール論」よりも楽しめました。
著者いわく、作家論というより作家論を論じる『作家論論』である、とのことでしたが、まさにまさに。80年代から90年代の文学界?を席巻したベストセラー作家の皆さんを論じ、彼らを論じた評価をさらに論じる、というものでしたが、読みやすい上に考察のベクトルが意外で面白い。なんというか、おそらく著者も文壇の中にあるはずの人なのに、ものすごく冷静で嫌らしくなく俯瞰した視点を持っていて、言ってみれば不思議なほどに地に足の着いたまともなスタンスを揺ぎ無く保っているのが、読んでて何しろ心地よいです。仰々しさのない、さっくりとした文章も一因なのかな。私みたいなのが難なく読めるのだから、噛み砕きつつも雑ではない、その力の抜けた感じがとても好きです。
内容も評論慣れしてない私からすると全部が興味深いのですが、とりわけ「なんとなく、クリスタル」はぜひとも読んでみたいと思うような、面白い考察がなされていて、本当に読んでて楽しかったです。村上 春樹氏を読み解くファンが本の中の作家が意図しない部分を深読みして謎ときをしたがる、なんてあたりは、ちょっと他人事ではない気分になったものです。深読みって場合によっては本当に面白いことあるからなあ。私は恥ずかしながら村上 春樹を読んだことがないのですが、やっぱり読みたくなりました。
あと、吉本ばななコバルト文庫、のくだりは、我が意を得たりでした。まったく同じようなことを、学生時分に「つぐみ」を読んで思っていたのを思い出したものです。小中学時代少女小説がお友達だった私のような人間は、だから吉本ばななは本当にとっつきやすかったし、面白く読めたのだな。
とりあえず、ひととおり紹介されている作家の本は、とりあえず読んでみようかな、と思わされるというのが、一番凄いかもしれない。

文壇アイドル論 (文春文庫)

文壇アイドル論 (文春文庫)