箱雑記ブログ

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しずる単独ライブ『僕は僕の横顔を知らない』

1年ぶりのしずるの単独ライブ、面白くて且つ刺激的で濃厚な単独でした。しずるの単独ライブは毎回とても濃いんですけど、今回は特に情報量が多かった気がします。
以下はネタバレもある感想ですのでご注意ください。

・オープニングコント
[VTR]オープニング
・呼び出された男
[VTR]単独ライブポスターオーディション
・オジイチャン
[VTR]単独ライブポスターオーディション
・狙撃
[VTR]単独ライブポスターオーディション
・僕と僕
[VTR]しずる池田の全裸でチャレンジ<1>
・殺し屋
[VTR]しずる池田の全裸でチャレンジ<2>
・お見舞い
・エンドトーク
[VTR]エンディング
・エンディングコント

まずもって印象的だったのは、それぞれのコントの尺の長さ。エンドトーク前の時点ですでに2時間を越えてまして、恐らく全体通して2時間15分くらいやってたんじゃないかと。その中で『狙撃』があの短さだと思うと、個々のコントの長さが伺えるかと思います。昨年もそうでしたが昨年以上に賞レースに向いていない、じっくりと時間を使って振ってみたり設定を説明してみたりする、尺があることで可能なコントばかりでした。その賞レースクソ食らえ精神みたいなものを感じさせるライブ構成があまりにも潔くていっそ爽快です。
要するにそのくらい、しずる二人が今この時にやりたいことがこれでもかと詰め込まれた単独だったのかな、と勝手ながら思いました。勿論去年のようにここから賞レースで勝負できるコントに仕上がっていく様が今後見られるのだろうと信じますが、それより何より、これだけ挑戦的な構成の単独ライブが今のしずるから生まれてきたことに、つい価値を見出してしまいます。

今までもずっと濃厚な単独ライブをしずるには見せてもらってきたのですが、こんなに刺激的なものを受け取れるとは。シュールというしずるに馴染みの深い単語をコントの中で皮肉るような『呼び出された男』や、コントの冒頭から提示された仕掛けに気を取られているうちにびっくりするくらい明後日の方向に展開していく『オジイチャン』などは特にそういった刺激を強く受けることができたコントかもしれません。
『呼び出された男』や『僕と僕』は前年の単独ライブのコントを彷彿とさせる導入や空気をしかけておきながら、中身はまったく別物の、まったく間逆のものを提示してくる姿勢にもびっくりしました。1年前の単独で見られたしずるの強みを強固に感じさせながら、1年前の単独とはまったく違うアプローチのものをがっつり見せてもらえたことに凄味を感じます。この単独に至るまでにしずるが磨いてきた特性や得意技に特化して磨きをかけたようにも見えました。見ている側を屁理屈で煙に巻いていく異様な説得力であったり、見てる側の予想など鼻で笑われているような超展開であったり。その特化ぶりが本当に楽しくて楽しくて、巻き込まれたり騙されたりとコントで翻弄されるような気分になりました。
じっくりと時間をかけて展開していくコントの中に、唐突に現れる『狙撃』のコントはもはや当たり屋にでもあった気分(笑)コントの振り幅の凄まじさはしずるの大きな武器の一つだと思っていますが、それにしてもとてつもない振り幅。なんて馬鹿なんだろう!と感激しかないです。

オープニングコントがとてもとても好きでした。とてもシュッとしていてオシャレに思っていた単独タイトルが、コントが始まった瞬間にとてつもなくくだらないものに(笑)前回の単独ライブに通じるような、会話の中でころころと状況が転がっていくコントで、その上で池田さんの顔芸の素晴らしさと、村上さんがなりふり構わず顔芸に走る新鮮さと、見所が山のようでした。とにかく脚本の力を感じるコントで、「光射すことある!?」等の要所のフレーズの輝きっぷりもずば抜けていて、このコントが終わった時に、ああ今年の単独も面白くなるんだ、と思えました。

『呼び出された男』は、見終わって初めてこのコントの凄さが分かる仕組みになっていて、何だこのコント凄い!と度肝を抜かれました。怪しい雰囲気の導入に始まって、ど頭からぶっこまれる会話に一気に引き付けられ。屁理屈というよりは相手を、むしろ客席を煙に巻くように繰り出されるもってまわった台詞の数々に、とりあえず見ている側は付いていくのに必死になる、んですが、最後の方でそれまで行われていたあらゆることについて誰も、登場人物でさえも「よく分からない」状態であることが提示されるので、今までのは何だったんだ!と(笑)あれだけの台詞量、あれだけの空気感とあれだけの熱量をつぎ込んでつぎ込んで大仰な世界を提示しておいて、最終的に何も意味がないと言われる、という。なんて馬鹿なんだろう!と終わった瞬間に感激してしまいました。
さらに、コントの中でシュールとは、という話を散々しておいて、そのシュールと呼ばれる事象を盛大に皮肉って終わる、という。これを、以前からシュールコント師と言われることの多かったしずるがやっているという、この尖ったアプローチぶりについつい痺れてしまったのでした。全部自分達に返ってくることでもあるから、ある意味自虐でもあったのかな。なんというか、言葉選びが難しいのですが、とても痛快でした。

『オジイチャン』は超展開ぶりがとにかく楽しくて楽しくて最高でした。おじいちゃんの言動について色々と話が進んでいくので、そういう構造のコントなのかな、と思っていたら、おじいちゃんの中にある理由がまずひとつ展開されて、そっちの方向にコントが進んでいくのかと思えば、今度はお嫁さんのしずかさんに軸が移ってまったく想像もしなかった展開に駆け上がっていくので、なんだこれは!とテンション上がりまくりでした。長尺だからこそ出来ることだなあと。村上さん演じるしずかさん、出てきた時からなんだか出来るお嫁さんの空気あるなあ、と思っていたら、それどこじゃないという。そういうにおいをお芝居の中で醸せる村上さんが凄い。

『狙撃』について語れることは、もう何もない気がします。あんなとんでもなく一発勝負の訳の分からないコントをこれだけ理屈っぽいコントが続く中に放り込める勇気が凄い。あれ、やりたかったんだろうな、と勝手に想像します。スポットライトで、あのメイクで、銃もって、ポーズ決めて、終わるっていうそのどうしようもなくおばかな一連を。

『僕と僕』は前回の単独で生まれた能力者のコント(名作!)とまったく同じ導入から入るコントで、しずるでこういうコントのイメージを引き継ぐようなものは見たことがなかったのでまずそれが新鮮でした。コントが進んでみると、能力者どころでない設定の複雑さで、そもそも提示されるその設定が本当かどうかも分からず疑心暗鬼でずっと見続けるような状態でした。見る側も持つであろう疑問の数々をひとつひとつ納得いく形で提示して、説得力がありつつそれが笑いの要素をこれでもかと持っているのも凄いなと。
コントの大きな流れにはあまり関係ないのですが、実際に登場はしない女の子や妹の存在がとても具体的で、特に妹に関するあれこれで一気にコントに奥行きが出るように見えました。
ネタバレになってしまうので詳しく言えませんが、後半の二人一役的な仕掛けがめまぐるしくて面白かったなーと。あとオチが大好きでした。勿論単純に、池田さんの顔を徹底してこき下ろすのも面白く、そのこき下ろし方がまた素晴らしかった(笑)

『殺し屋』は他のコントに比べると構造そのものはとてもシンプルで、でもそのシンプルさが複雑で理屈っぽいコントの中でひときわ映える仕上がり。やってることは単純で、ボケも大枠でひとつしかないようなコントなのに、池田さんの立ち振舞い一つでめちゃくちゃ面白くなっていることが本当に怖ろしいです。とにかく緩急が素晴らしいったら。あと、しずるのコントでたまにある、呼び名や実際コントには関わらない組織の名前が具体的に提示される無駄なディテールの扱いがこのコントでも見られて、見ててニヤニヤしてしまったなあ。

『お見舞い』は長いコント達の中でもひときわ長尺のコント。最初に提示されるコントの主題となる要素=魔法が、実際は主題ではなくあくまで本来の主題を引き出すための要素として使われるという、その形がものすごく好きでした。魔法を中心に話が進んでたのに、いつの間にかその中心が池田さんにスライドしていて、そこから出てくるのは登場人物同士のドラマで、最初にコントを見ていた時点では思いもよらない着地点が待ってるのが素晴らしいな、と。普通ならどうしたって魔法をいじり倒したくなると思うんですけど、それがある上で、という話の流れに持っていくあたりがいいなあ素敵だなあと思います。
お話そのものが後半とてもあたたかい内容になっていて、これは本当に私の思い入れなのですが、1回目の単独(るつぼ)の『マコトとトメ』でのあのあたたかい空気を思い出したりしていました。だから最後の最後で裏切られるんじゃないかとハラハラしたりもしました(笑)
池田さん演じるキャラクターの独白が本当に切なくて、だからこそその後の展開に気持ちが明るくなったり。池田さんは単独において徹底してお芝居が素晴らしかったのですが、個人的にはこのコントにおける終盤の独白の時のお芝居はちょっと凄すぎたな、と思います。ちょっとだけ顔を歪めてみたり、悔恨と悲痛の様に目が離せなかったです。
一点だけ、恐らく本来そこでそうならないだろうというトラブルがあったようで、しかもそれがコントの根本をひっくり返してしまうトラブルだったので、それだけが本当に残念でしたが、恐らく誰よりも驚いたであろうしずるの二人が何とか建て直していたので、それはそれで貴重なものが見られたのかもしれないな、と。

そうして、エンドトークが入って、エンディングVTRがあって、最後にまたこの『お見舞い』のコントがエンディングコントのような形で続くのですが、その中で今までの各コントのシーンが少しずつ回収されていく形に。コントが繋がる形をしずるの単独で見られると思わなかったのでこれまた新鮮でした。しかもたまらないのは、ここで演じられるそれぞれのコントのシーンは、二人の役割が元のコントの役割と逆になっていること。しずるは二人がそれぞれでそれぞれのネタを作ってくる形だそうなので、コントはそれぞれ池田さん作であったり村上さん作であったりするはずなのですが、こうして最後に双方が逆の役割を演じている様を見て、どちらが作ったコントであろうとそれはしずるのコントという枠の中にあるのだと、見ているこちらが勝手に納得してしまいました。たいしたことではないんですが、とてもいいなとなりました。

VTRは毎度のことながら珠玉の作品の数々。単独ポスターのオーディションというあまりにも身勝手且つ馬鹿馬鹿しい企画は、若手単独などでも良く見られるほかの芸人さんが参加する形ながら、その参加芸人さんのラインナップが大物すぎてびっくりするという。FUJIWARA藤本さんが、後輩の単独ライブのVTRなどというものでも全力で笑いを取りにきてて破壊的に面白かったので、先輩やばすぎる…となりました。
そして恒例池田さんの裸VTRは、今回はレトロゲームを模した、簡単なアスレチック的なセットを大事なところを見せずにクリアできるか、という、今回もそれはもうどうしようもなく面白いアレでした。本当に面白かった…。


長々と書いてしまいました。本当にとにかく刺激的で、とにかく面白い単独ライブでした。しずる二人が今やりたいこと、やってみたいことをぎゅうぎゅうに詰め込んた単独だったのだな、と思います。じっくりと前振りの長いコントは、見ていてわくわくが止まらないです。その中で、何が起こるんだろう、と考えるこちらの予想なんてあっさり足蹴にする勢いでぶっこまれてくる展開が楽しくて楽しくて、本当にたまらない気分になりました。4月のずしゃるの指輪を捨てるコントが、まさに今回の単独で見られた、じっくりと振っておいて途中から思いもよらない方向に話が転がるコントで、片鱗だったのかな、と思ったりもしました。
それぞれのコントのお話の性質上、終始笑いっぱなしという単独ではなかったのかもしれませんが、見ていて脳が休まることがなく、ずっと緊張感と共に前のめりで見ることのできた単独ライブでした。エンドトークの時点で2時間をとっくに過ぎていたことに驚いたくらい集中して見ていました。しずるの単独が、回を追うごとに情報量が多くなっていって、見ているこちらが感じる情動も多くなっていって、どんどん奥行きを感じる単独になっているように思えました。
本当に面白かったです。何か思い出したら追記するかもです。