箱雑記ブログ

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神保町花月『前夜じゃ!』

神保町花月シュール5班のお芝居を見てきました。
すごく好きなお芝居でした。本当にいいものを見たなあと思いました。以下好き勝手に感想を。内容について思い切りネタバレしていますのでご注意ください。台詞等は完全にうろ覚えなので、間違いやおかしな点があればご指摘いただけると助かります。




ある居酒屋?の親子と、居酒屋に集まる人々の、それぞれの「前夜」にまつわるお話。お話の流れは大きく2つあって、ひとつが親子に関わる話、もう一つが居酒屋に訪れたある客の話、と私は見ました。そこに、他の登場人物が絡んでいったり、それぞれの前夜の物語があったり。
このお話が本当に大好きでした。吉田さんの脚本は『かくれんぼ』の時も大好きだったのですが、今回のお話もかなり自分に刺さりました。派手なお話ではないし、大きな起伏やポップさも無いのかもしれないけれど、それぞれがとても愛すべきキャラクターで、台詞のひとつひとつがやたらと染みるのです。それも半端でないくらいの浸透度です。お話の芯のようなものがそこかしこに感じられて、それが私にはすごく合っていたみたいで、とても嬉しい。


私がとにかく一番目を離せなかったのは、家城さん扮する自殺前夜の男=青山で、「学生時代からずっと好きだった女性の結婚前夜、自殺をしようとする男」という設定なのですが、その自殺の衝動の根源に揺さぶられっぱなしでした。
出会って以来ずっと告白しつづけて、そのたびに振られて、それでも諦めきれない男が、その愛する人の結婚に際して、彼女は本当に幸せになれるのか、顔も知らない見知らぬ男が本当に彼女を愛しているのか、自分よりも愛しているのか、自分以上に彼女を守れるのかという疑問というかむしろ不安を持っていて、彼女の幸せを思うあまり自殺をして人ならざる力でもって彼女を守ろうとするのですが、こうして書いてみてもどこか現実味が薄いのに、家城さんが演じる青山には、不思議なリアリティと説得力があるのです。それが凄い。この青山という男が吐き出す言葉にはどれも凄まじいパワーがあって、全編通してやられっぱなしでした。
シズカとの回想シーンで、彼女=シズカの「青山くんは、女の子を絶対に幸せにできると思う」という台詞があって、すごく良かったなあ。そう思っていてもやっぱり幼馴染が好きだというシズカも、シズカにそう思わせる青山も、どちらも素敵だと思えるのが素敵。
青山は、周りから見ると不気味だしどこか気持ち悪いし得体が知れないのに、ひたむきで、一途どころでなく、ただただ好きな人を思い続けて好きな人の幸せだけを考えていて、それが得られなければ自分の生にさえ意味が無いと思っている。だからこそ自殺を選ぼうとするのだと思うのですが、まずもってその尋常ならざるひたむきさが眩しい。「何かがあったら駆けつけてあげればいい」と言われて、青山は「何かあった後じゃ遅いんだ」と叫ぶのですが、彼女の人生が健やかでなくてはならない、という執念に近いような思いの強さに見ていて驚かされるのです。
そうした話をする青山に無性に泣けてしまい、その後のシーンでもどうしようもなく泣けました。多分泣きどころがおかしいと自分でも思うのですが、こればっかりはしょうがない(笑)結婚が決まったときだけシズカから電話をかけてきて、泣きながら「あなたが好きでいてくれたから私も好きでいられた」と言ったというくだりも、これまた泣ける。シズカにとっては青山もまた大事な存在だからこそ、そんな大事な関係性が終わりを告げることを哀しく思っているのかな、というのが、何となく伝わってくるくだりですごく好きです。


店で偶然出会った関町さん扮する結婚前夜の男が愛する彼女の結婚相手では、と思った青山が、彼に詰め寄って「彼女に電話をして『愛している、幸せにする』と言え」と詰め寄るシーンはお芝居の山場だと思うのですが、このシーンがとてつもなく好きで好きで、家城さんのひとつひとつの声や表情に釘付けでした。人前でそんなことを言うのは恥ずかしいと躊躇する相手に何度か「恥ずかしくない!」と断言するのですが、それが本当に好きだったんです。ずっと彼女に告白し続けてきた青山にとっては当たり前のことで、でもその言葉こそが青山のシズカに対する全てだったから、彼女が本当に幸せになれるかどうかを、その言葉でもって確認しようとするのも当たり前なのかもしれないなあ。
それを見届けて、彼女の幸せを確信した青山が、倒れこんで、起き上がって、万歳と言い出す、あの流れがたまらなかったです。彼女に完全に失恋するのと、彼女が絶対に幸せになるということが、青山にとってはイコールで、本当に切ないんですけど、それを同時に受け止めた青山の姿の、空虚なのに力強いあの感じがもう。家城さんが素敵すぎました。家城さんは複雑な心理を持つキャラクターをものすごい説得力でもって演じてくれるから目が離せません。
多分青山にとっては、結婚前夜の男の相手が本当に彼の知るシズカさんであろうと無かろうと関係なくて、シズカという女性と結婚する男が、彼女を幸せにすると口にしたという事実こそが大事であり、彼の救いになるのかもな、と勝手に考えたりしてました。


そんな感じで自殺前夜の男に感情移入しまくりで見ていたため、「愛してる」のひとことも言えない関町さん扮する結婚前夜の男に対して、最初はまー苛々しまして(笑)そんなことも出来ないで愛しているだなんて言えるのかと思って見ていただけに、あの関町さんの声でもって「愛してる!」といわれたら、うわーとなります。そんな関町さんと家城さんのコントラストもひっくるめて、あのシーンはすごく素敵。そういえば関町さんと家城さんのキャラクターは、好きとか愛してるとかはよく分からないという映画オタクと、愛情のためだけに命がはれる男と、メンタリティが真逆なんですね。面白いなあ。
それにしても関町さんはこういうオタクっぽい役似合うなあ(笑)あまりにも無理の無いキャラ設定の上、スーツが成人式のようで妙にキュートなのが不思議。


お話の大きな柱だったのが、林さん扮するお店の大将と、阿部さん扮するシュウイチの親子と、そこに絡む中澤さん扮する山さんの話でしたが、これもすごく素敵だったなあ。林さんの父親が本当によすぎました。阿部さんと年齢そんなに変わらないはずなのに、ちゃんとお父さんに見えたなあ。変な貫禄ありますね。阿部さんもなんとなくちゃんと息子に見えるから面白い(笑)
終盤における父親の悔恨と救済のシーンの林さんは本当によかったなあと思います。それまでずっと飄々として安定していた父親が、声を震わせたり詰まらせたりする様にはちょっとしたギャップがあって、それだけにぐっとくるものがありました。毅然として息子を東京へ送り出して、そのまま罪を償おうとする父親の、弱さというか、心の深い部分が垣間見えるようなところがあって、これまた素敵なのです。ああいう人間臭い感じ、林さんはさすがだなあと思います。
阿部さんの発する真っ直ぐで飾り気のない台詞まわしも染みました。素直な言葉がどこかくすぐったくもあり、ほんわかともしていて、いいなあと思います。「山さんみたいに茶化してくれる人がいなきゃ話せないよ」みたいな台詞があったと思うんですが、そのくすぐったい感じがすごく阿部さんの柔らかい感じが似合ってて素敵。
そしてこの親子の話に深く関わるのが中澤さん扮する退職前夜の男・山さんなのですが、山さんのキーパーソンぶりがとても良いなあと思いました。何しろ定年間際のちゃきちゃきのおやっさん、というキャラが、中澤さんにぴったりすぎて、なんだったら出オチだったし(笑)基本ずっとおちゃらけてるんですけど、締めるところはきっちり締めてのけるのも、中澤さんのメリハリのかっこいいところかもしれない。山さんは、出頭しようとする大将を諌めて、親子の未来を救済するのですが、林さんの重厚なお芝居の横で、引けを取らない存在感だったのもよかったなあ。やってらんねえよーなんて言いながらさらっと退場してしまうのもすごくらしいなあ。湿っぽい感じを引き摺らない感じが嫌いじゃなかったです。
林くんはジュンイチの友達で空気の読めない初デート初バイト初路上教習前夜の男(笑)この無駄に多い項目もごちゃごちゃしてて笑えてしまうなあ(笑)ずっとジュンイチと一緒にきゃっきゃしてて、ちょっかい出したりちゃちゃ入れたりして、とっても和むし笑えて楽しい。特に大きな役割があるわけではないんですけど、それでもしっかり存在感があって、でも邪魔しなくて、佇まいが心地よいなあと。


池谷さん扮するオカマのメロンちゃんは、キュートで且つ深みがあって、ここもすごく良かった!メロンちゃんとお父さんのくだりはお話としてはとてもシンプルで、それだけにすんなりと胸に迫るものがあった気がします。池谷さんは相変わらずさすがです。ともすれば色物になりかねないオカマというキャラクターを、しっかり肉付けして見せてくれちゃうのだから凄い。お父さんに「息子は死にました」と言われた瞬間の、メロンちゃんの表情は本当に凄かったなあ。
メロンちゃんのお父さんは、息子を追い返しては泣き、息子に手術の電話を貰っては泣き、手術が終わっては泣いてしまうのですが、お父さんの涙の意味を考えると本当に切ないです。メロンちゃんの方にも、息子として父親の望むように生きられない自分への親不孝ぶりと葛藤している様子があるけれど、同時にお父さんの方には、なんで自分の息子がと思ったり、自分の子供のやりたいことを認めてあげられない自分が悔しかったり、それでもやっぱり感情的な部分で認められなかったり、本当に複雑な思いがあるんだろうなあと想像してしまって、これもたまりませんでした。手術すると電話を貰った際のお父さんの涙なんて、もう本当に、考えるだけで苦しいくらいです。
そういう思いを乗り越えて、あのあけすけで明るいメロンちゃんがあるのかと思うと、本当に素敵だ!と思わずにいられません。


田所さんのおじいちゃんは、ずっとそこに居てくれるっぷりが本当に良かったです。ボケちゃったおじいちゃんが、ぴしっとまともなことを言うのが凄く好きでした。「今の時代は死に現実味がない」と振っておいて、「それは悪いことじゃない」という、その言葉の奥深さは、長い年月でいろんな経験をしてきたおじいちゃんの持つ年輪の厚みをどうしたって感じずにはいられないのです。こういう台詞が出てくる吉田さんの引き出しに思いをはせてしまったりもします。吉田さんのインプット作業を知りたくなる瞬間。
田所さんすごくよかったなあ。お芝居の第一声で、場がぴりっとなったのが印象的なのです。あれで、何が始まるんだろう?とわくわくする感じ。あと、メロンちゃんとおじいちゃんの関係がなんか可愛くて大好きでした。ここで世間の狭さを振っておいて、でもシズカさんの下りに関しては、本当かどうか分からないまま、というのも好きでした。


心をちゃんと打ってくれる言葉が多くて嬉しかったです。『かくれんぼ』のときもそうでしたけど、メモして残しておきたい衝動に駆られる台詞がとても多い。最後のジュンイチが喋る鼓動のくだりも、しっかり聴いているととても良くて、いいなあいいなあと。
あとは、青山というキャラクターの存在そのものであるとか、あの行動原理であるとか、そういった部分についても、吉田さんの中からああいうものが生まれてくるのかーというのも何となく面白いなあと。もしかしたら家城さんという存在があってこその、あの感じなのかもしれませんが。


何だか書き足りない気もしますが、とりあえずここで一度切ります。きりがないので。神保町花月の感想が久々のせいなのか書き方忘れたのか単にへたくそなだけなのか、全然まとまらなくて自分で自分のことが腹立たしいくらいですが。読み返してみると、青山のことが好きすぎますね私。
思い出したり追加したいことがあったら、また追記していくということで。