箱雑記ブログ

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神保町花月『かくれんぼ』

見てきました。これ、ものすごく好きでした。社会人ウン年目の人間として刺さるものが多すぎたし、いろんなジャンルで作品を作るということを生業としている人達に興味津々の今日この頃だったので、そういう視点でも本当に揺さぶられるものがありました。お話として好きすぎでした。以下盛大にネタバレしての感想。



営業として日々の生活を生きる男が、ある日自分の携帯電話にかかってきた電話の「もういいよ」という子供の声を聞いた次の日、おかしな世界に迷い込んでしまうというお話。・・・と書きましたけれども、多分これじゃあお話の1割も表せていない気がする。不思議な世界を描くことが本旨ではなくて、主人公を通して大人という存在のやるせなさや不自由さや閉塞感、子供の頃の自由奔放さや無鉄砲さが、お話の根幹なのかな、と私は勝手に解釈しました。本当に勝手ですが。
過去の神保町公演でも何度か感じたことがありますが、今回のこの公演も、社会人として働き出して何年か経ているいい年の人間の方がより感じられるものが多いのかもなあ、と思いました。私自身も、子供の頃の夢なんてものを振り返る機会なんてまるで持っていないので、余計に迫るものがありました。


菊地さん扮する主人公が迷い込んで、バスで進んでいく世界が、まるでマジカントMOTHER2のようだなあと思ったてました。主人公のこころの世界。そこには主人公の思い出や大事なものや出会ったり経験したりしたものが奇妙で斬新な形でもって存在していて、剥き身の言葉でもって語りかけてくるんですが、それと同じものをあのバスで進んで行く世界に感じたのでした。これが伝わる友人がこのお芝居を見てくれていて嬉しかった(笑)
バスの運転手=亡くなったお父さんも、女の子=初めて付き合った彼女も、変な男=小さい頃の友達たちも、それぞれが独自の意思を持って主人公に語りかけてくるので、深層心理とひとことで片付けてしまうのはもったいないかな、と。そこに説明はありませんでしたし、説明されても困ってしまうので、「何だったんだあれは」で終わるあの感じがとても好みでした。それよりも、そこで語られるあらゆるものが、ひどく優しかったり切なかったり手の届かないものだったりすることの方が印象的。これも勝手な解釈ですが。


アンケートを書くときも、あのアンケートの感想欄に演者さんについて言及するスペースがなくなるくらい、脚本についての感想しか書かなかった気がする。脚本が好きで好きで。刺さったり揺さぶられたり横っ面を叩かれる気分になったりする台詞があまりにも多くて、脚本をゆっくり読み直す機会が欲しいと切実に思うくらい。大好きなシーンがいくつかありまして。
歌手をしているという女の子が、主人公に向かって「歌に逃げたの」と語るところ。歌手だってつらいことはあるだろうと問われて、彼女は「だから好きなものに逃げたのよ」と言い、運転手が「長嶋は野球に逃げた、ピカソゴッホは絵に逃げた、プレスリーはロックに逃げた」と語るその台詞は、初日見に行ったときにちょっとしたショックを感じたりしました。もう絶対自分の中からは生まれない発想というか、着地点だなあと。逃げたというけれどみんな成功してるじゃないか、と問われて、運転手は「全力で逃げたってことや」でしたか、そう答えるものだから、わーとなってしまった。後々考えてみると、芸人さんだからこその台詞と思えなくもない、かな。
それから、エンドトークで大事なシーンだと演者さんたちも言っていたところ。座った4人がうねうねと動きながら(笑)話すシーン。「才能や努力だけじゃどうにもならないものがある」「どれだけ自分のやりたいことに真剣に向き合えるか」これは刺さる。大いに刺さりました。
あとは、ラスト近くの、大雨の中3人がそれぞれ主人公に語りかけるシーン。運転手=お父さんの台詞はちょっと良すぎました。「環境や○○(忘れました・・・)のせいにしたらあかん」「人生悟ったら終わりやから」というのと同時に、「お父さんの生き甲斐はお前だった」なんて言うんだからもう。
複数回見てどうしても同じ場所で泣けてしまったのが、この大雨のシーンでの白井さん扮する変な男=小さな頃の友達たちが語るところ。それまで彼は子供らしい純粋で残酷な理論を振りかざして、主人公に「仕事が楽しくないならやめればいい」「逃げるのが怖いんでしょ」「苦労すれば報われると思ってるんでしょ」「世間体とか気にしてるんでしょ」と、「人生より生活を取った」主人公にとっては痛烈な言葉を容赦なしにがんがんにぶつけてきて、「怒られたっていいじゃん」「語るより遊べ!」なんて言っていたのに、そんな彼が最後の最後で「大人も大変だよね」「昔は責任も重圧もなくてよかったよね」「昔は昔だから、しょうがないよね」と、同じ口同じ声で言うものだから、たまらないものがありました。あれだけ楽しければいいじゃないかと言ってきたこの子(なんとなく子と言ってしまうようなキャラクターだったのです)が言う「しょうがない」はかなり重いと思うのです。その重さにちょっと泣けてしまったのでした。
全体的に白井さん扮するこの変な男が言う台詞は、見ている私にはかなりピンポイントに痛いものが多くて、それだけに印象的でした。


最後の最後、主人公のもとにかかってくる電話の主=子供の頃の自分に対して、彼は「ごめんな」と謝るのがとても好きです。結局、「自分とかくれんぼをしてた」という主人公の中には、父親も、初めて付き合った彼女も、友達も、みんなちゃんと残っていたのに、唯一子供の頃の自分だけが残っていなくて、結局見つけることも出来なかったということかな、と。だから、作中での「みーつけた」は全部空振りの間違いで、本当に見つけなきゃいけない相手には「ごめんな」となるのかな、なんて勝手に思ってました。それがいいなあと。そりゃ今更戻れないよね、だって「しょうがない」んだもの、と勝手に納得してました。
楽しいことに逃げられずに、生活していくために生きていく、そんな状況が他人事は思えなくて、ここに至るまでにいろんな夢を忘れてきた自分だからこそ、見ていてぐるぐるといろんな感情が渦巻いてしまったなあ。
見る人によって、かなり印象や感じ方が違うお芝居なのかもしれません。私は結構、自分の現状と照らし合わせてリンクする部分が多くてだいぶ刺さるところがありましたし、自分からはおそらく出てこないであろう言葉がぽろぽろと提示されてがつんときたりしたので、それもあっていいなあと感じたのだと思います。


初日に見に行ったときに、吉田さんの脚本だからということで、相当素っ頓狂なお話を予想というか、いっそ期待していた部分があったので、そういう意味では初日はちょっと物足りなさがあった気がします。ただ、その後で改めてこのお話を見たときに、そんな先入観を取っ払った状態だったせいか、かなりストレートにお話そのものに揺さぶられることができて、なんだったら2回目の方がはるかに迫るものがありました。
それにしても、こういうものが吉田さんの内側にあるのかと思うと、とても新鮮だし、吉田さん奥が深い(笑)


主演を担った菊地さんは、ほぼ出ずっぱり。すごくいいなあとずっと思いながら見てました。3人の不思議な人達に振り回されるぶりも、戸惑う様子も、雨乞いの祭りではっちゃけるところも、表情がとにかく豊か。そういえば、ずっと苛々としていた主人公が、祭りのシーンでやっと自分の置かれてる状況や仕事のことを忘れて思い切り楽しんで、それと同時に雨が降って、「雨が降ったら遊びは終わり」となるあの一連の起伏がとっても好きだったのを思い出しました。お祭りでのダンスで思い切りわくわくして楽しくなって、わー!ってなったところで雨が降ってきて、ああ終わっちゃった、あんなに楽しかったのに、というあの感じ。
白井さんは、神保町で白井さんを見るたびに思うことですが、本当に白井さんにしか出来ない役作りを見事にしてのけるなあ!と。子供の頃(でしたか、そういう台詞ありませんでしたっけ)の友達の分身?というあのキャラクターが、難しかったと初日のエンドトークで言っていたのですが、あの立ち位置の人物をああいうずけずけ物をいうけど無表情で明後日を見ているようなキャラクターにしちゃうというのは、ものすごい発想勝ちというかなんというか。また衣装や小物がかわいらしいんですよね!個性的なんてもんじゃない。アジサイの乗っかったニット帽があんなに似合うのはおそらく白井さんしかいない(笑)
ジューシーズセブンbyセブン、どちらもすごく安心して見られて素敵でした。特に赤羽さんと玉城さん、動ける巨漢が二人というのは祭りのシーンではなんたる武器かと(笑)MCイルボーノ=児玉さんのラップもさすがに様になってましたし、楽しかったなあ。松橋さんの愛嬌はお芝居でも遺憾なく発揮されていたし、ジューシーズは3人ともすごく出来る人達ですね。児玉さんへのムチャぶりは災難ではありましたが(笑)


ラストシーンは日替わりだったそうで。千秋楽の、白井さんが自由に作り出したラストシーンはシュールというよりサイコホラーで素晴らしかった(笑)本編以上に説明しにくいので割愛しますが、「もういいよ」の解釈をなぜあんなことにしてしまうのか(笑)ああいうのを見ると、チーモンチョーチュウの単独に一度は行ってみたくなります。
エンディングに脚本の吉田さんがいらしていて、色々とお話されてました。そういえば東京大吾組で「演出50%、演者45%で、脚本の貢献は5%くらい」と言ってたような(笑)数々の台詞に揺さぶられた身としては、改めて脚本を振り返ってみたいなあと思ったりしたのですが、脚本が最初の段階では芝居にすると15分くらいにしかならないと言われたとのことで、どんな状態だったのかと(笑)


そんなところです。今ざっと読み返してみたんですが、相当気持ち悪い感じですね。よっぽど好きだったんだなあと我ながら驚きました(笑)しかも本当に自分が見てて感じてこれは!と思ったことは全然ちゃんと書けていない、ような。何か忘れているような気もしますので、また思い出したら追記します。