箱雑記ブログ

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神保町花月『黄昏』

公演終わったので感想を。しずる班です。前にも書きましたが、私はこのお話が大好きでした。久々にものすごく前のめりな感じで複数公演を見に行った気がします。ノスタルジーにも弱いけれど、高校生という期間限定のスポーツモノにも弱いし、何より、変わっていく世界とか、取り戻せないものとか、それに対する後悔とか、そんなもので笑っちゃうほど揺さぶられてしまうのです。以下ネタバレで感想。長くなりました。



かつての甲子園球児だった仲間達が、マネージャーのお葬式に際して再会するお話。12年前の甲子園に際してあったいろいろなことを、辛い形で、もしくは懐かしい思いで、あるいは悔恨とともに、振り返って思い出していくというもので、シーンごとに現在と12年前が行き来して、前半にちりばめられた大小の疑問が、ちょっとずつ後半に明らかになっていく形。
演出は終始静かであからさまに盛り上げたりすることもなく、淡々とじわじわと時間が流れていく様が、はっきりとしなくて地味かもしれませんが、私はすごく好きでした。何か重要なことが起きているシーンでも、演者さんの台詞以外はセミの声やひぐらしの声が流れているだけで、その静けさがピンと張り詰めた感じにすごく合っていて、大好きでした。12年前のシーンでは懐メロがちらほらとかかるんですけど、ものすごくいい感じで使われてて、それもいいなあと思いました。
脚本そのものも決して派手さはないんですが、一貫して感じられる世界というか空気があって、たまらなかったなあ。とにかくいろんな要素が自分の弱いところをどんどん突いてくるので大変でした。台詞も好きなものが多くて、例えば宮村さんが、若くして未婚の母となって好きな同級生の前から去っていって、それでもそんな自分を追いかけてきてくれた真田への最後の言葉として、「あなたのおかげでちょっとマシな人生になったと思う」と言うのとか。過去の事件について聞かされた裕二くんに「お義兄さんはどう思うの」と聞かれた真田が、「誰も悪くなんかないでしょ。違うかな」と言うのとか。死んでしまったけど子供は残せたしいいの、と語る宮村に対して木島が「死んでいいことなんてあるわけないだろ」と言うのとか。なんだか書き出すときりがないなあ。


私はこういう話だと、どうしても木島タイプのキャラクターに感情移入して話を見てしまう傾向がありまして、今回もやっぱり他のキャラクターに比べてだいぶ入り込んで見てしまった気がします。
高校時代天才ともてはやされたスター球児の中に、以前の学校で暴力事件
を起こしてしまったこと、それをもみ消されてしまったこと、好きな女の子が監督と関係を持っていたこと、プロ入りするも肩を壊して引退してしまったこと、それで最終的に現在ろくな人生を送れていないこと、そんないろんな暗い要素がたくさん凝縮してしまっているのが、痛々しくて、色々考えてしまうなあ。何がいけなかったんだろう、とか。
私が一番脚本というか設定というかで一番涙腺を刺激されたのが、アメリカに去っていく前の宮村さんの「プロになって、大リーグにいって、私を迎えにきて」という言葉を、当時あれだけ激しく突っぱねておいて、その後一度も会うことも連絡を取ることもなかったのに、壊した肩をおしてプロに入って、その約束を守ろうとしていたんだなあ、という点だったりします。高校時代、壊れてしまった眩しい時間を取り返したくて、必死に足掻いたけれど、結局果たせなくて、木島の中には後悔しか残ってないんじゃないか、とか。それでも、なんとしてでも迎えに行きたかったのかな、とか。本当に色々と考えます。それすらも出来なくて、野球すらも奪われて、結局病気にもなってしまって、どれほどの思いで12年ぶりにかつての仲間と再会しようとやってきたのか。
だから、そういう木島の中にあるであろういろんな感情が、前半に見に行った時に、村上さんのお芝居からいまいち上手く感じることが出来なくて、ものすごくもどかしかったです。もっと何かあるんじゃないのか、と思って見てるんですけど、こちらが思うほどに伝わってくるものが無くて、惜しいなあ、と。村上さんだったらもっと出来るんじゃないのかなあと、そう思うだけに余計にもどかしかったです。村上さんに対して出来ないと断じるのはやっぱり悔しいので。「ことのは」のときも同じことを思ってましたそういえば。
なので、日曜の楽前を見たらそれがちょっと良くなっているように思えて、千秋楽に至ってそれまでとは明らかに違うお芝居になっているように感じて、びっくりしました。特に千秋楽は、完全に本気というか、お芝居に没頭できてるなあ、と思えたのが嬉しかったです。村上さんはやっぱりやれば出来る人だ。前半でエンジンがかかりきらないというのは、お芝居に関して案外不器用なのだろうか。スロースターターということか。あそこまで芝居が変わるか、と本当に驚きましたから(笑)
千秋楽の、最後に木島が一人で舞台に立つシーンが素晴らしかったです。思い通りにならない過去の栄光の肩に顔をしかめて、ボールを握り締めて「やっぱりやりたいんだな、野球」と呟くシーンで泣けました。それまでは泣けなかったんですが、本当に全然伝わってくるものが違って、これは!と。それで涙腺壊れました。シーンそのものの印象がもう全然違ったなあ。ちゃんとハイライトになってて、これでこそ、と思いました。


木島は役として美味しい役だったと思うのですが、真田は逆に難しい役だったのかな、と素人考えて思って見てまして、池田さんが本当にいいなあ、とこれは公演期間中見るたびに思ってました。本当に、神保町花月で池田さんを見るたびに唸らされてしまいます。感情の起伏や、機嫌の上下が激しい役ではなくて、常におっとりとしていて、暴力事件のときも、自分のことよりチームとエースのことを考えて行動しちゃうような、そんな優しい男の子なのですが、池田さんがすごく好演されてたなあ、と手放しに絶賛してしまいます。
少し前にも書きましたが、「誰も悪くなんかないでしょ」という真田の台詞があって、その自然さとあたたかさに、見るたびに泣いてた気がします。事件を起こして木島に「君はエースだろ!」と叫んだりするよりも、こういうシーンでぐっとくるあたりが、真田だなあと思うし、それが出来ちゃう池田さんてすごいのかな、とか。
なんとなく想像ですが、池田さんのお芝居は、演じているというより、その役になっている、という印象です。作りこむんじゃなくて、すぽんと入り込む、みたいな。池谷さんのお芝居を見るときに近いものを感じる、というのは言いすぎでしょうか。村上さんが、じっくり役に自分を近づけていくタイプに見えるので、ある意味これもコンビバランスだろうか、と思ったり。
ところどころ、ちょっとストーカーテイストや狂気テイストが見え隠れするのは、池田さんの個性なのだろうということにします(笑)そういえば友人が言っていたのが、「笑いを取るパートに入っても池田さんは真田のまま対応しているのがすごい」ということ。なるほど!と思いました。


紅一点の岡田さんはさすがでした。女優さんですしそりゃそうだよね、と思うんですが、それでもやっぱり、いいもんはいいんだ!ということだけは書きたくなるわけです。幽霊になって出てきたときに、ほとんど湿っぽさがないのがすごく好きです。木島に対して「死ぬなって言うために来た」というときに、ことさらに明るく振舞うんですよね。たまらない。そのくせ、「そうだった、今日は私のお葬式だった」と思い出したみたいに呟くときの表情とかも、大好きだったなあ。私はずっと、宮村さんが最後、木島に残した「ごめんね」の意味を考えているのですが、考えるだにこみ上げるものがあります。現在の宮村さんからしたら、壊れた肩を押してプロ入りして、それが原因で早々と引退して、天才としての木島の人生を台無しにしてしまったという気持ちが、少なからずあるのかなあ、とも思うし、12年前のあれとかこれとかに対しても、多分宮村さんは木島に負けず劣らず後悔の念を持っているのではないかと思うのです。
だからこそ、「ちょっとはマシな人生になれた」という台詞が出てくるのかもしれないなあ。考えてみたら、宮村さんも木島も過去のことをずっと悔いていたのに対して、唯一12年前甲子園に出られなかった真田が一番前向きに一途に人生を生き抜いてきたというのが、皮肉だなあとも思います。


この公演で嬉しい誤算だったのが、ポテト少年団の御三方が想像以上にかっちりとお芝居に溶け込んでいた点。失礼千万だと思うのですが、ものすごくちゃんとお芝居をやって役をこなしていたなあ、と。菊地さんは出来る人ですし、貫禄もあって、立ち姿も見栄えがして、要所要所ですごくいいものを見せてもらえて、でも菊地さんだし出来るのもうなづけるなあ、という感じなのですが、中谷さんと内藤さんは予想以上に良くて、すごい!とこれまた嬉しくなってしまいました。
中谷さんはちょっとエロで情けない実松を好演されていたし、内藤さんの飄々としたキャラクターが違和感なくお芝居の中にも生きていたのもこれまた素敵でした。ポテト少年団はもっとたくさん神保町に出て欲しいかもです。真剣な顔でシリアスなお芝居をする御三方、実はかなり絵になりました。
そういえば私は、割と孤立しがちな木島とも仲良く付き合って全体をしっかりまとめる西田キャプテンのキャラクターがとても好きで、木島に真っ向から敵意をむき出しな桜井(ご指摘いただきました。ありがとうございました)といつもつるんでいるけれど、桜井ほど木島に対して敵意を持ってなくて居心地悪そうにしている様子も好きでした。キャラ付けが細かいのがいいなあ。


驚いたといえばGO!皆川氏に対しても。過去の事件を一手に担うトラブルメーカーの役だったのですが、凄みもあるし存在感もあるし、ウンチョコ(略)を連発している普段の皆川さんからは想像つかない立ち振る舞いで、いいなあと思って見てました。立花が本当に緊迫感ないと駄目みたいなところがあると思うので。皆川さんのちゃんとしたお芝居は新鮮で、別な一面を見られてお得な気分です。


ブロードキャストは神保町で初めて見たのですが、これからどんどん出て欲しい!と思うくらい良かったです。吉村さんは役も合っていたのかもしれませんが、桜井はただ一人あからさまに過去の事件や木島への不審・敵意をずっと持ち続けてそれを全面に出す役で、良くも悪くもまっすぐで、ある意味不協和音な桜井のキャラが愛すべきキャラとして写るのは吉村さんのお芝居ゆえなのかな、と。舞台上の動きとかも自然で様になってて、ぜひ他の役でも見てみたいと思いました。
房野さんは宮村さんの弟役で、出番は少ないけれどある意味キーパーソン。正直、房野さんのお芝居はもっと見てみたいと思いました。裕二くんと真田で話をするシーンがとても好きなので。


全体を自由に、且つがっちり締めていたのがさすがのあべさん。あべさんは今回監督役で、これまたかなりのキーパーソンなのですが、お話の展開に直接関わる点ではないところでは、それはもう自由にボケ倒して振りまくって、ご自分でも日々違うものを仕込んでいたりで、本当に面白かったのですが、いざストーリーに関わる展開に出てくるときは、それまでが信じられないくらいに重いお芝居で、どすんとくるような凄みを見せてくれるのが、本当にすごいなあ。それまで散々おちゃらけていたのに、暴力事件のシーンでの、いろんなものに対して憤る木島に対しての「いいから早くグラウンド来い」「信じるなよ」のくだりは、かなりずっしりきまして、ふり幅が広いというか、ギャップが素晴らしいな、と。絶対にお芝居の流れを壊さず、その中で芸人さんとしての個性と、役を演じるということに対しての個性を、どちらも遺憾なく発揮しているのが本当にすごい。


単純に、12年前の野球部の雰囲気がすごく楽しくて、木島だけは輪から外れてしまっていたけれど、ノートを見てみんながわいわいしているのとか、微笑ましいくらいでした。だから、ラストで誤解のとけた木島と桜井が握手をして、みんなで野球をやりに外へくりだしていくのが、なんとも言えない切なさがある。一人だけでなく、12年間止まっていた全員の時間が一気に動き出す空気がある中で、でもそこにはマネージャーは居なくて、エースの肩は壊れていて、野球を続けている人の方が少ない、そういうちょっとさみしい現実から、ひとつだけ「みんなで野球をやる」ということだけを過去から取り戻したというのが、切なくも前向きで、でもやっぱり切なくて、ああいいお芝居だなあ、と心から思いました。
木島に感情移入しているから、木島の今後を考えたりもするのですが、12年で失ったものの方が明らかに多いはずだけれど、それでも木島がこの日得たものの大きさを思うと、やっぱり泣けてしまうなあ。木島に宮村さんの姿が見えてしまうからには、死期が近いというのは本当かもしれなくて、それでも宮村さんは「木島くんに私が見えるのは、頑張って生きて野球を続けてって伝えるため」と励まさずに居られなかったのかな、と。木島が自分なりに、死期が近いから見えるのか、というところをある程度納得している様子だったから、宮村さんの言葉に宮村さんが望む効果があったかどうかはなかなか難しいところかもしれないけれど、木島にとっては、かつて思いを寄せていた相手が、自分が生きることを望んでくれているという一点こそが、大事だったのかもしれないな、と。それこそ「ちょっとマシな人生」を送るために、これほど力になることも、無いのかもしれないなあ、と思えて、やっぱり涙腺が緩んでしまう。


「取り戻せないものに対する憧憬」「過去に対する後悔」というのを感じてやたらと胸が詰まるのは、やっぱり私がそれなりに年を経ているからだろうかなーと思います。「放課後アゲイン」を見たときも思ったけれど、学生時代が十分な過去になっている年代の人ほど、色々感じるものがあるのかも。多分世代的に、ここに登場しているかつての高校球児たちはほぼ同じ世代という設定なので、余計にそう思うのかもしれません。


お芝居の内容ばかりになってしまってますが、笑いどころも多くて、盛りだくさんだったように思います。岡田さん扮する宮村さんの、真田に対する吐き捨てワードが見るたびに鉄板で素晴らしかった(笑)岡田さんはあんなに可愛らしいのに、ポテト少年団やあべさんのギャグを躊躇なくたくさんこなしたりして、本当に素敵な女優さんです。
吉村さんと内藤さんで写真取り合うシーンのくだらなさも楽しかったし、ウザイ監督相手に自分達の発言をごまかそうと必死な菊地さんと村上さんの様子も新鮮で面白く見てました。
笑いどころとお話の展開とが喧嘩しあわなければ、自然と笑えて泣けるお芝居になるのかな、と思いました。千秋楽、あべさんが明らかにそれまでとは比較にならないフリを他の人達に撃ちまくってましたけど、シーンごとにメリハリがあるから気にならずに見ることが出来たので。
個人的に、池田さんのフルスイングのあまりのキレの良さに爆笑してしまった。以前千鳥の大悟さんが何かで「スイングが美しすぎて笑える」みたいなことを言って実践していたのを思い出した(笑)本当にびっくりするくらい美しいパワースイングなんで、惚れ惚れするのと同じくらい笑ってしまったのでした。


そんなところです。だいぶ気持ち悪い感じで長々とすみません。自分が思っていた以上に、どうやらこのお芝居が大好きのようです。もっと見たいと思ってしまいました。まだ何か忘れていることがあるような気がするので、思い出したら追記します。
そうだ、オープニングでアニメのタッチの主題歌が使われてて、菊地さんがそれを一言一句間違わずに口ずさみながら出てきていたのが可笑しくてしょうがなかったです。そういえば、タッチの主題歌にしろ、劇中で使われていた「想い出がいっぱい」にしろ、歌詞をよくよく見てみるとストーリーに何気なくシンクロしていて、それを確認してまたちょっとぐっときてしまったものです。