箱雑記ブログ

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神保町花月『やけくそチェンジ』

ライス初座長公演、見てきました。ちょっとひねりがききつつもまっすぐで分かりやすいお話で、すんなり入り込めて、楽しめました。以下感想。



仕事もプライベートもやることなすこと何もかも中途半端、唯一考えているのはただ一人の肉親である妹の将来のことだけ、という刑事が、トラブルで自分の命があとわずかであると誤解してから、妹のために残せるもの=殉職して給付されるお金、を目当てに、今まで避けてきた危険な仕事に本腰を入れて立ち向かい、その中で自分の生き方を見つめなおすというお話。でいいのでしょうか。相変わらずあらすじをまとめるのが下手すぎる。
全体通してポップで分かりやすくて、笑いも絶えず、何気に普遍的なテーマもあって、楽しく見ました。私最近死ぬ気で何かやったかなあ、なんてわが身を振り返ってみたりもしまして、結構身につまされたものです。


平日に一度と千秋楽に足を運んだのですが、平日のときにはなかった、「橋田が唯一逮捕したことがあるのが、坂口の父親で、坂口はそれを偶然知り、逆恨みも手伝って橋田に対して恨みを晴らそうとする」というくだりが追加されてました。なくても不自然ではなかったのですが、あったらラストの橋田と のやりとりの緊迫感がまた違ったように思えたので、説得力もあるしいいなあ、と思いました。本当にいろいろと日々変化して成長していく舞台です、神保町花月


失うものは何もない、という状態に至って、それまで全てのことを簡単にやり過ごしてきた男が必死になる、そのなりふりかまわない必死さが、関町さんによく合っていて、いいなあ、と思って見てました。悪い人じゃないんだけど優柔不断、というのが関町さんのキャラクターとマッチしすぎて違和感なし。もちろん、関町さんのお芝居がすごくいい、というのは大前提なのですが。ちょっと情けないキャラを無駄なく演じられるって素敵です。すごく味がある。とにかく前半のダメな感じの橋田は、見ていてそれはそれは腹が立つのです。本当にダメでダメで(笑)本人がそれでもいいや、と思っている様子なのがさらに腹が立つという(笑)見ている側をこれだけイライラさせられるのだから、関町さんはすごいです。どうせ死ぬなら殉職してやる、と決意してから、関わる全てのことに100パーセントで体当たりするようになる、そのギャップが、悲壮感漂うというよりどこか微笑ましく温かい印象になるのは、これまた関町さんの持つ雰囲気ゆえでしょうか。もちろん、全体通してポップな演出に仕上がっているからこそ、そういう立ち振る舞いをされているのかもしれませんが、その悲壮感のなさ、死に直面してなお前向きな様子が、逆に見ていて気持ちよかったです。うじうじするんじゃなくて、開き直って妹のために殉職して散ってやろうじゃないか!という、ある意味破れかぶれな意気込みが、それだけにパワーがあって好きでした。それにしてもいい声過ぎて、目をつぶったら本職の俳優さんかと思えるんじゃないかと(笑)声を張るときの緊張感がすごくいいなあといつも思います。


田所さん演じる坂口は、ナイフで切りつけるわ銃をぶっ放すわの危険な指名手配犯でしたが、表情凄味ありすぎです。千秋楽では、終盤客席から舞台に上がるシーン、近い距離で田所さんを見ることができたのですが、相当迫力ある顔をしていて、おお、と。さすがにお芝居上手なんですよね、滑舌がちょっとあれなだけで(笑)千秋楽のエンドトークで、福田さんが「魂は一番こもってた!」と言っていたのですが、確かに、と納得してしまった私です(笑)あと、私はなぜか、田所さんの動きが気になってしょうがないのです。運動神経が悪い感じでもないし、すごく迫力もあるんですけど、どこか気になる。ぎこちないわけじゃないんだけど、スムーズという感じでもなく。何となく昭和っぽい気がするからでしょうか(笑)あと、数々の動物形態模写シリーズ、なんであんなにお上手なんですか!動物の名前を言われて、こちらが頭の中で想像する、あんな感じかな?という動きをはるかに上回るクオリティをすべてにおいて見せてくれるというのが。動物観察がお好きなのでしょうか。動物園がお好きなのかアニマルプラネットの視聴者なのか(笑)

ピクニックさん扮する吉村は、やっぱりさすがの安定感。本当に安心して見られます。自殺をしようとした吉村と、それを止める橋田のシーンで、橋田の言葉に冷静さを取り戻した吉村が、「あんたは死ぬな」とだけ、静かに言うのがすごく好きでした。吉村は、あの時点で橋田が本気で自分がもうすぐ死ぬと思い込んでいることを知っているから、橋田の言葉に嘘がないことを見抜くんだと思うのですが、それを目の当たりにして、泣くでもなく八つ当たりするでもなく、いろんな毒気を抜かれたような静かな表情で死ぬな、とだけ言うのが、目の前の人間は生きて自分は死ぬしかないという悔しさと、それでも橋田の嘘のない言葉に確かに動かされた自分がいるという事実が重なった、すごく生々しい台詞だな、と。またそれを言うピクニックさんの気だるげな表情が素敵なんです。緩急の表現が素晴らしいなあ。


LLRはもう、見ていて楽しくてしょうがなかったです。福田さんは橋田の相棒の河合役として、心行くまでのびのびと立ち回りつつ、押さえるところは押さえてくれるのがとっても好きでした。最初の方で「お前は何が楽しいんだ」と叱咤しながらも、橋田のことを見捨てずに最後まで付き合っていくんですよね。いいキャラクターだなあ。犯人確保のときの異様なはしゃぎぶりとか、楽しすぎてよく笑いました。福田さんがはしゃいでる姿って妙に可笑しい(笑)スーツもお似合いで、結構自然と目で追ってしまってました。どんなに走っても暴れても、ほとんど乱れないあの前髪のセット具合も気になりつつ(笑)あと、これは本当に個人的な好みなのですが、うっかり橋田の妹マユちゃんとくっついてしまえばいいのに、と思うくらい、あの二人のやり取りは可愛すぎました(笑)私、恋愛もののドラマとか映画とかを見てても、主役のカップルより、その友達とか脇の方のカップルの可愛いやり取りに夢中になってしまう傾向があるので、正直にきゅんとなりました(笑)
伊藤ちゃんはエリート刑事美樹本役で、「エリートですけど」と言う台詞を聞いた瞬間に笑ってしまってごめんなさい、と思いました(笑)伊藤ちゃんのヤな奴芝居は、結構リアルに嫌な感じになるのは、見た目が善良ゆえのギャップでしょうか。マンガ的なあの嫌なエリートぶり、全然嫌いじゃなかったです。結局全体通して空回りしているあたりが憎めない(笑)
少年感覚のお二人は初めて見たのですが、13期生とは思えないくらい堂々と舞台に立っていて、びっくりしました。特に上司役の久松さんは、細かいところでたくさん笑いもさらっていて、存在感もあるし、すごいなあ、と。またぜひ神保町で見てみたいと思いました。


女優のお二人は素敵だったなあ。新井さんは、キャラそのものは結構変わり身の早い感じでちょっとびっくりしたけれど、凛としたところのある女性だなあと。「この仕事くらいちゃんとしましょうよ」とか、厳しい台詞が本当に厳しく聴こえて、橋田の気持ちでびくびくしてしまったりしました(笑)
大塚さんは、可愛すぎた!制服が似合うし、「お兄ちゃん」という呼び方が似合いすぎました。あれなら、そりゃあお兄さんは必死で大学に行かせてあげようとするよね!という説得力が満載で(笑)お芝居の中で関町さんが兄役に乗っかっていろいろやらかそうとしていたのにちょっと腹が立つくらいでした(笑)


欲を言うなら、関町さんには思い切りシリアスなお話で思い切りシビアな役を演じてほしいな!と。今回のようなふわふわした役は絶対にハマるのが分かるので、逆にもっと殺伐としたキャラクターを演じきってもらえたら、面白そうだなあ、と思うのですがどうでしょう。


以上です。楽しかったです。ライスにはまた神保町で座長やってほしいな。