箱雑記ブログ

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神保町花月『ZOO』

見てきました。久々に複数回。中村さんは神保町でこの道を突き進んだら素敵なことになると思います(笑)以下感想。



テーマというか、取り上げられた題材は嫌いじゃなくて、むしろ好きな部類です。あらすじを読んだときも、ちょっとバトルロワイヤルっぽくなるのかな?という興味があったりしたので。
なので、見ていて内容として、なんというか、惜しいなあ、という印象です。この題材なら、もっといろんな方面からもっとたくさんアプローチできる部分があった気がする。
たとえば私は江崎さん扮するケンジの役がとても好きで、なぜかと言えば、無理矢理無人島につれてこられたことによって、「友達いない」「携帯番号なんてひとつも知らない」「誰からも電話かかってこない」という、いわゆる現実世界でひとりぼっちだった人が、この非常事態によって否応なしに孤独でなくなって、ひとりでなくなって、話す相手も協力する相手も、なんだったら童貞くんなのに綺麗な女の人とも仲良くなれて、逆境によって新たな生活を見つけられた、という点がとても新鮮だったから。
だからこそ、現実世界で誰からも電話がかかってこないという人が、無人島にひとつだけ持っていくものに携帯電話を選んだ理由とか、掘り下げても面白いんじゃないかな、なんてことを思うのです。
あるいは村上さん扮する東も、ケンジと同じようにあまり現実世界に未練のない様子で、「推理小説みたいだ」「9人の勇者が揃った」なんて面白がるようなことを言い出してニヤニヤして、アンケートに「今より面白くなれば何でもいい」などと答えたりする、ああ見えて現実世界に対する鬱屈したものを抱えているキャラクターなのだから、これまた色々深く探るのも面白いのかな、なんて思ったものです。
この二人に限らず、閉鎖空間、サバイバルな状況に追いやられた人間同士のやりとりを取り扱うという点では、そういうひとつひとつのキャラクターをもっとちくちくつっついてくれたら、もっとわくわく出来たかもしれないな、なんてことを思いました。
ただ、簡単にバトルロワイヤルのような展開に走らず、どこまでも人間らしく「全員生きて帰るんだ」という点に終盤までこだわる展開だったのも、逆に嫌いじゃなかったので、だったらもう、思い切りそっち側に振り切れる内容でもよかったかな、とも思います。


あとは単純に、台詞のやりとりがおぼつかない、タイミングが合わないという印象があって、練習期間が短いのかな?という気がしました。全体的にリズムが良くないような気がしたのもそのせいかな、と。
ただ、演じられている10人の出演者の皆さんが、皆さん個性を発揮していた様子だったので、それはとってもいいなあと思って見てました。


やっぱり見所といえば中村さんで、全体通して何度人格が入れ替わっていったことか(笑)本当に素敵なポジションを確立していて、中村さん、新境地!と見ていて嬉しくなりました。原住民風メイクの似合うこと似合うこと。ヘビを見つけたときの動きの素早さは尋常じゃなかったです(笑)ケンジや東と違って、状況を楽しむのではなくて、状況に馴染んでいく、というあたりがより野生的(笑)
それから、池田さんが出番も多く、普段とはまた違ったキャラクターを自然に演じているのがいいなあと。神保町の池田さんは見るたびにポイント上がります。終盤、ミヤタを鋭く制するときの声とか、自分のナイフが自分の好きな女性を傷つけたと語るところあたりはぐっときました。普通に、すごく上手いんじゃないのかな、と思うのは、果たして贔屓目のなせる技なのか最初のハードル設定が低いのか、どっちだ(笑)
山本さん扮するミヤタは、実は何気にキーパーソンだったなあ、と振り返ってみると分かります。この人の行動でやっと話が動いた気がする。行動理念がエロのみ、っていうキャラクターも、これまたもっと掘り下げたら、また別にどぎつい展開になったりしたかも。でもそうすると神保町花月では公演できないのか・・・(笑)
あと、あんじさんが演じるアカネが、嫌な女になりきらない、地団太踏んでわがまま言っててもなんか可愛い、みたいな絶妙のラインで、すごく好きでした。やりたい放題の中村さん相手にもめげずに奮闘していて素敵だった(笑)
逆にとくこさんの、とことん空気を乱す女子役も、嫌な感じがいいなあと思いました。キミカについて苛々したり腹を立てたり出来ないと、お話として成り立たないところもあったかな、と思うので。
サラダさん扮する秋山の、集団の良心的存在も好きでした。秋山がぼそぼそ喋りだすと、なんかみんな耳を傾けちゃう、という感じが。秋山のトーンがいつも穏やかだったので、他のキャラクターから逆に際立つところがあったかも。
ケンジや東に比べて、この非常事態に完全に焦ってしまっている役だった、鮫島さん扮する青木が、思えば一番普通の人だったのかな、なんて思います。最初から最後まで悲壮感でいっぱいで。そういえば、最後の最後、腕を切られてしまった青木が、全員が笑い狂ってしまう中、気付くと動かなくなっていて、演出細かいなあ、と思ったものです。
横山さん扮する新井は、諸悪の権現という以前に、終演後に友達が言っていた「藤岡弘がモデルだよね?」というポイントに衝撃。それか!(笑)よくよく思い返してみると、アキラのナイフを借りて、それをキミカに渡すのも、キミカに  とアカネがいろいろしてるのを見せるのも、みんな新井くんなので、何気に色々暗躍してたなあ、と気付くのも面白かったです。


江崎さんと村上さんは、普段のキャラクターを彷彿とさせる役柄でしたが、それだけに安心して見ることが出来ました。普段を彷彿とさせる分、演者さんよりも彼らが演じるキャラの方に興味津々。
私、ケンジが「友達いねえんだよ!」と爆発するところ、大好きなんです。その後あっさり謝るところも。対人の感情の見せ方が下手すぎて、現実の世界で、あまりコミュニケーションをとることの無い人なのかな、というのがこういうところで分かるのも面白い。一人で先走って携帯番号聞いたり旅行しましょう!ってはしゃいだり、人とのやり取りがあまりにり不器用すぎる。現実ではありえなかった、「人と生活する」ことが思わぬ事態で実現して、はしゃいでいるというのが、とっても面白いし、逆に人間臭くて好きでした。
ケンジと同じように、悲壮感なく淡々と三日間を過ごしている東は、終盤まで結構謎めいたキャラクターだったから、何か裏があるのかなと思って見てたのですが、裏でもなんでもなく、この人も現実の世界に飽き飽きしていた人だったのだな、というのが分かって、これまた面白い。終盤までは、単に冷静沈着で自信過剰な人、というだけにとどまっているのが、最後の最後で、この非日常を楽しんでしまっている人だったのだな、と分かるのがいいです。最終的に東の退屈がもたらしたものが、最後のトドメみたいなことになるわけで。
こういうところに引っかかるのは、単純に好みの問題だとは思いますが、バックグラウンドを掘り下げてくれたらもっとよかったな、と。結局そこに行き着いてしまうのか。本当にただ私が見たかっただけ、なんですけど!


一点不思議だったのが、中村さん扮する山形さんの袋の中がフリスビーだった点。山形さん本人も、フリスビーを知らないのだからフリスビーと答えるはずがない、と言っていましたが、なぜフリスビーだったのかは結局語られてないのかな?と。
そういえば、山形さんはアキラに「俺と一緒にロケットに乗ろう」って言ってきたけれど、あんだけ馴染んでたらそんな発想もう出てこないんじゃないのか?(笑)誰よりも逞しく生き抜いていたというのに。


そんなところです。私は結構楽しんで見ました。
余談ですが、公演期間中に本屋で見た桐野夏生の新作が、これまた無人島に漂着した人々を題材にしたもので、すごいタイミングだなーとびっくりしました。タイミングがいいからと読んでみようとしたのですが、相変わらずさらっと手を出すにはいろんな意味で厳しい内容のようなので、もうちょっと気力が充実してから読んでみたいです。