箱雑記ブログ

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神保町花月『ことのは』

アームストロング班の神保町花月、週末も見てきました。平日見てきたときにも書きましたが、お話そのものはシンプルで、真新しいものは無かったのですが、父と娘というテーマの普遍性もあって、とっても素敵なお話でした。久々に複数回神保町に足を運んだというのもあると思うのですが、このお話が大好きになりました。
そういえばエンドトークにて「芸人さんにも評判がいい」という話になったとき、栗山さんや橘さんが「あのPOISON GIRL BANDの吉田も泣いた」「あの心を閉ざした男が」と散々話していて笑いました。どういう取り上げられ方してるんでしょう。伊藤ちゃんはさらっと名前が出ただけだったのに(笑)
以下ネタバレを含んだ長い感想です。



18年前に妻が病気で他界してしまった父と、その娘のお話。仕事仕事でまったく家庭を顧みずにここまで来た会社の社長である父が、その父に母が病死して以来ずっと反発しつづけている23歳の娘が自分に隠れて結婚しようとしていることを知ってから始まる話で、父のせいで母は不幸だったと思っている娘や、仕事をしてお金を稼ぐことで家族や娘を守っているつもりの父や、そんな父の部下で娘の恋人の男が、いろんな感情のすれ違いを経て最終的にきちんとお互いに向き合う、というストーリー、でいいのかな。
こうして書き出しても本当に王道というか、いっそベタな話で、すれ違う父と娘の関係も普遍的だし、収まり方も普遍的。だからお話そのものももちろんいいお話なのですが、それ以上に登場人物の感情の機微が見所のひとつだと思える内容なのかな、と。そうすると肝となるのは演者さんの芝居の数々なのだと思うのですが、その点、上手に見せてくれる人が揃っていて感情のぶつかり合いはものすごく見ごたえがあったので、そういう意味ではいい演者さんに恵まれて素敵なお芝居に仕上がったのかもしれないな、と思えました。お話だけ見てたら、ストレートすぎて物足りないと思ったかもしれないところを、その直球をしっかりじっくり表現してくれた皆さんの力量でぐっと引き込まれた気分です。
細かいところを言うと、もうちょっとお父さんが奥さんを仕事仕事と言いつつも愛していたよ、というのが分かったりしたらいいかな、とかありましたけど、細かいことをうだうだと考えていても、終盤でひょこっと袖からイベリコ左衛門が出てきた瞬間に吹っ飛んでしまうのでした。


主役を張るのは、お父さん役の安村さんと、娘・春子役のフォービーズの伊藤さん。安村さんは、朴訥としていて仕事に厳しいし部下に対しても怖いところがあるけれど、どこか抜けたところやとぼけたところもあって憎めない社長役を好演されてたなあ、と思います。安村さんらしい、あまりくどくならないどこかさらっとしたお芝居が、逆にこういう直球に泣かせるような内容だとハマるのかもしれないな、と。部下みんなにはすごく強気で頼りにされて愛されているのに、娘のことになるとてんでぱっとしないあたりとか、リアリティがあった気がします(笑)メリハリも利いてたし、すごく良かった。
イベリコ左衛門(ブタの手人形)を操るときの、お父さんの口調がすごく好きでした。飾り気がなくて、わざとちょっと棒読みな感じ。すごく泣けるシーンなのに、わざとらしくない感じがとてもいいなあ、と。
また土建屋さんの格好が誰よりも似合ってたのも印象的(笑)おなかの出具合が絶妙(笑)白髪まじりの髪型だったのですが、サングラスをかけて結婚式場に尾行するシーン、後半は栗山さんに「立川 談志」と言われていて、言われてみれば似すぎていて爆笑。千秋楽は橘さんが「談志師匠」に対してぺらぺらおしゃべりをしている図が面白すぎました(笑)


伊藤さんは、そりゃもう本物の女優さんでいらっしゃいますので、よくて当たり前!と思っていてもそれを上回る素晴らしさで、たくさん泣かせていただきました。とにかく細かい感情の表し方がどれもこれもすごく胸に迫るのです。最初の方の、父相手の呆れたような冷めた表情とか、水野とこっそり会ってるときの「いよいよだね!」のときのお茶目な笑顔とか、その後で父の話を持ち出されてすっと顔が冷める瞬間とか。式場で父に食ってかかるときの迫力は並大抵じゃなかったなあ。水野に「どうしてお父さんから私を奪ってくれないの?」と訴えかけるところのやるせない感じも好き。なにより、病院で夜を明かしたときの疲労困憊しきった気だるさと、そこにイベリコ左衛門が現れた瞬間の空気が解けて動き出す感じがたまりませんでした。一気にいろんなものが緩んで、ぼろぼろ泣いてしまう春子を見て、こちらも客席でぼろぼろ泣いてしまうという。
そのくせ、けけけサイトーさん相手に「だだずべりですね」と呟くときの徹底したどん引きの表情とかも完璧(笑)笑いのツボも外さないでフォローしちゃうんだから素敵です。伊藤さんは本当に素敵な女優さんだ!
もう一人の女優さんである岡田さんは、18年前に亡くなった奥さん・より子役。岡田さんは、神保町では心優しい女子高生→蓮っ葉で元気な女子大生、という若々しい役を見てきたのですが、今回の苦労を背負った奥さんの感じ、それまでの印象と全然違って驚きました。女優さんてすごい!話し方というか口調が、しっかりとそれなりに年を取って苦労も知っている女性って感じの喋り方なのです。見た目的に老けメイクをしているわけでは全然ないのに、ちゃんとお母さんに見えるってすごい。
千秋楽のエンドトークで、「伊藤さんと岡田さんがいたから舞台がしまった」とアーム二人が言っていて、本当に毎度同じことを共演した芸人さんが言うのだから、相当なのだろうな、と思いました。


お父さんと春子の次に重要なポジションを演じていたのが水野役の村上さんで、私はしずるが出た神保町花月のお芝居の中で、今回の村上さんが一番好きでした。優しくて気は使えるけど、仕事が出来なくてちょっと気弱で言い訳がましいキャラクターで、春子を気遣いながらも、自分が何か行動を起こすことにはいろんな理由をつけてちっとも動かない。ずっとうじうじしてるんです。式場で父と春子が酷いことを言って思わず平手うちをしてしまったときも水野は棒立ちで、あの腑抜けぶりは見ていてそれはそれは腹が立ったものです(笑)
そんな、とにかく相当不甲斐ない男、という役柄だったのですが、最後、お父さん相手に土下座するシーンが本当に好きで。走っていて、春子の言葉を思い返して「違う!」と叫ぶシーンも好き。
神保町での村上さんのお芝居には、いつも「いいんだけど何か物足りない」というのをいつも思っていて、単に私の中のハードルが高いからなのかな、と思っていたのですが、もしかしたらちょっと余裕が見えるのが物足りない理由なのかな、と。全部個人的な感覚なので的外れなことかもしれませんが、必死な芝居をしていても、どこか余裕があるというか、没頭してないというか、そういう印象があったのです。2日目に見に行ったときも同じことを感じていて、もったいないなあと思っていたのですが、千秋楽は違って見えて驚きました。なんだったら、それまでは伊藤さんとお父さん(イベリコ左衛門)のシーンで伊藤さんに泣かされていたのに、千秋楽だけは、土下座をして「娘さんと結婚させてください」と言う水野でぼろっと泣けましたから。後ろの席でしたし土下座してるから表情は見えないのですが、切羽詰った声が重量感があってすごくよくて、村上さんやるなあ!と感激したものです。
あとは単純に、白タキシード(礼服)が似合いすぎでした(笑)伊藤さんと恋人役で、村上さんは小柄ですが伊藤さんが更に小柄で小顔なので、とってもバランスがいいなあと思って見てました。


栗山さんは、所謂スーパーサブ的ポジション。結婚式場のマネージャー役でしたが、非常に見た目的に怪しさ満点のキャラクターで大いに笑いました。そのくせ、父との対話ではこの芝居の核になる台詞を担っていて、そういうところは栗山さんは上手いなーと。ただその台詞、千秋楽飛ばしてたような気が・・・(笑)
最初は「結婚式場スタッフにとって重要なのは金」「女性の夢を食う獏だ」なんてことを言っていた本田さんが、すでに中盤でいい人になっちゃっていいことを言ってみたりして、最後の最後には二人の結婚式の司会進行をしながら号泣しているという(笑)怪しいだけで全然嫌な奴じゃない!というのがとても好きでした。
栗山さん、シリアスなお芝居上手だから、もっと見てみたかったなーという気はします。ただ、ものすごく美味しいポジションではありましたが。


もっと見てみたかったと思ったのは他にもいて、池田さんとエリートヤンキーはもう少し時間をください!と思ったものです。特に池田さんは、台詞回しから立ち振る舞いから、病院のシーンでの爆発力から、とにかくいつもこちらの予想を上回ってこられるなあ、と今回も思いました。単にハードルが低いだけかもしれませんが(笑)にしても池田さんの舞台勘というか、なんと言うか、素人には言葉で表しにくいのですが、なんかいいのです。台詞とか、立ち振る舞いとかが、お芝居に対してしっくりはまって見えるというか。ボキャブラリーの少なさが悔しい。病院で食って掛かるときの本気ぶりが素晴らしいと思ったものです。
西島さんは、出オチかと見まごうばかりの素晴らしき濃厚メイクと髪型で、それに見合った素晴らしく濃いキャラクターで、インパクトあったし楽しかったなあ。西島さんが楽屋裏ブログでご自分の役を「宝塚」と評していたのにすごく納得(笑)西島さんの新たな一面を見ることが出来て嬉しく思います(笑)もともと背も高いし手足長いし顔も整ってるしで、ああいう濃いキャラクターが付くと舞台上ですごく映えるんだなあ。仕事も出来て同期の水野の尻拭いもして、キザだけどいい奴、というところも好きでした。病院で鎮痛な面持ちの様子とか。
橘さんは栗山さん扮する本田とともに結婚式場で働く北野役。とにかくあの声で全編やりきる橘さんが大好きです(笑)春子と一緒に水野を待ってるところのシーンが妙に記憶に残っていて、橘さんの一発ギャグ的なラインナップももちろんなのですが、春子が「この人すごく面白いの!」とはしゃぐ様とかもひっくるめて可愛い(笑)
シャーク寺本さんは、実は地味に好演されてたんじゃないか、と失礼な感想ですみません。病院で土下座してるときのぐちゃぐちゃな感じとか、最後のシーンで泣いている様とか、いいなあと思いました。シャークさんの鼻水は行くたびにすごいことになってて本当に笑ったものです(笑)
セカンドのお二人も、オカマの山田さんは不思議と和ませてくれたし、宅急便のお兄さんはダダすべりしていても頑張ってました(笑)結構重要なシーンで重要な台詞を受け持ってたなあ。
スリムクラブのお二人は、相変わらずの存在感。内間さんはなんと神保町花月4回出演中3回目のロシア人役だそうな(笑)もはやロシア人役として望まれているとしか思えない。真栄田さんはボケてしまった宅急便のお兄さんの父役でしたが、これが最初に出てきたときは単純に面白さとインパクトだけで大変なのに、後で再登場してきたときは切ないんですよねえ。真栄田さんは普通の役が欲しいとおっしゃってましたが、普通でない役でも素敵な芝居を見せてくれるあたりが魅力なのかもしれません(笑)


千秋楽って結構芸人さんがやりたい放題になりがちのようなのですが、「ことのは」の千秋楽はだいぶスペシャルな感じでした。何しろ最初の朝礼の体操(という名のトランスにのせての太極拳)になぜかそのシーンにはいないはずの北野くんが出てきて一緒になって踊ってみたり、山田さんのいらないボケ(笑)に水野が「僕こういうキャラじゃないんですが」と前置きしてジョッキで顔を突いてみたり、さらなる山田さんのボケに対して小津さんの美しいハイキックが決まってみたり(笑)挙句本田マネージャーの髪型がすごいことになって、さらにシルクハットの中に一輪の花が!(笑)あー笑った。


その他のどうでもいいこと。開演前の諸注意をイベリコ左衛門が言ってくれるのですが、これがとても好きでした。開演前は可愛いなあ、何か関係があるのかなあ、と思っているだけなのですが、見ていくとお芝居の大事なファクターだと分かるんですね。粋です。
あと、開演前に座席にいると、幕の閉まった舞台の方から、どん!という大きな音がよく聞こえてきてて、これまた何をやっているんだろうと思うのですが、どうやらあれは西島さんがジュテの練習をしている音とみましたがどうですか(笑)西島さんのジュテは非常に高い位置をキープしていて美しかったです(笑)
あと、最初に歌とダンスがありまして、私平日は結構前の席で見ていたのですが、ダンスってやっぱり全体像を引きで見たいなーと思っちゃうんですよね。千秋楽で後ろの席で全体像が見られて嬉しかったです。みんな良く揃ってて見てて壮観でした。ダンスみたいな体を動かすプログラムでテンション上がるのは完全に私の趣味です。


千秋楽はエンドトークもちょっと多めに。岡田さんがコメントを求められて恐縮しつつも恐る恐る喋りだすのに対して、伊藤さんが「岡ちゃん前向いてしゃべろ♪」と言ったりして、フォービーズの女優さん楽しい(笑)そして伊藤さんは夢に出てきたセカンドの福島さんのことを応援したくなったそうで、エンドトークでも気持ちよくすべりまくる福島さんに「けんちゃん頑張れ!」と無邪気且つ残酷なエール(笑)
シャークさんの鼻水で盛り上がったり、アームストロングが色々後輩に言われるのに対してお互い相方だけは超絶甘いフォローをしてみたり(笑)伊藤さんを毎回ビンタしなくてはいけない安村さんの話なんかもありましたか。
あと、これは千秋楽じゃなかったかもしれませんが、橘さんはこのお話が大好きで、「お客さんよりも誰よりも僕が一番好きです!」と断言されてました。素敵だ(笑)
公演そのものも評判が良くて、尻上がりにお客さんも増えていったとか、そんな話もありました。


本当にいい雰囲気の班だったのだなあとしみじみ思ったものです。とてもいい時間をすごせました。しかし長々書きすぎたなあこれ。