箱雑記ブログ

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神保町花月『頭蓋骨を抱きしめて』

千秋楽に行ってきました。以下は盛大にネタバレをしての感想です。
カメラが入っていた日があったようなので、ファンダンゴTVでの放送を楽しみにされている方がいらっしゃいましたらご注意ください。この公演は特に、ネタバレすると楽しみも半減?みたいなところがあるので。



あらすじは、10年ぶりに同窓会という形で再会した高校時代の演劇部の仲間が、10年ぶりに集まったことによって引き起こされる悲劇、という感じでしょうか。内容はとてもシンプルです。苛められていた少年が、苛められていたことによって狂ってしまった人生を恨んで、自分の人生を狂わせた人間達に制裁をもたらそうとする、台詞にもあったとおりの「復讐劇」。
本当にお話はシンプルなのですが、そのシンプルなお芝居に厚みを持たせているのは登場人物の狂気と恐怖なのだな、と、書いてて改めて思いました。
個人的に、最初に見たときは前半のお遊びというかムチャ振り?を含んだ部分がちょっと長いなー退屈だなーと思ってましたが、あのどうでもいいお遊びの時間があるからこそ、後半の展開が引き立つというのもあるのかもしれません。深読みかもです。
こういうジャンルのお話としては、ストーリーも狂気や恐怖の演出も王道かなと思うのですが、それだけにスタンダードにどきどきさせられたりぞっとさせられたり、その震えがくるような感じがとても好みでした。怖い話とか、サイコサスペンスとか、好きなもので・・・。


谷垣=林が豹変というか本性を現してからの、他の3人の対応というか態度は、すでに怪我をしていた木村はともかく、山田と渡辺の言い訳や謝罪が見ている側からするとことごとく今更に思えて、上滑りして見えるのですが、それは多分安達さん扮する林の怨念めいた恨みの爆発ぶりがあまりにも強烈で凄まじい印象だからかもしれません。悲惨な境遇や10年間は、それだけでも十分説得力があるのかもしれませんが、そこにさらに「そんな風に今更謝っても、絶対許してもらえないよ、空々しく思えちゃうよ」と見ていて感じたのは、ひとえに安達さんの狂気ぶりが輪をかけて悲惨さを訴えてくるからだろうか、と。
ただ、山田だけは芝居の頭から終始、いじめられていた鈴木と林に対する同情を口にしていたので、「俺はお前らをかばっただろう」という訴えだけが、苦し紛れの訴えに聞こえないのですね。


私が一番好きだったというか印象的だったのが、この山田の「俺はお前らをかばっただろう」という訴えに対して、それまでの狂ったように笑いながら同級生をバットで殴りつけてた林が、一瞬動きを止めてから、狂気というより泣き顔になって「それでもいじめは止まらんかった」と叫ぶところでした。それまでの復讐に喜びを感じているような林よりも、この一瞬で人間らしい感情と悲痛さを一気に顔に出して叫ぶ林が、とにかく胸に迫ってしょうがなかったです。安達さんは、前半の淡々とした芝居や、時折見せる乾いた表情とか、豹変してからの突き抜けた狂いぶりなど、どれもこれも鮮烈で素晴らしかったのだけれど、とにかくこの一瞬の変化とその後の泣いて血を吐くみたいに「止まらんかったやんか!」と叫ぶ様で打ち抜かれました。
苛められた相手に対する純粋な復讐心や吹っ切れてしまった狂気よりも、もしかしたらこうならないで済んだかもしれないのに、という悲痛さの方がぐっとくるというのがまた皮肉です。
そんなわけで、このシーンの安達さんが個人的にMVPと思ってます。すごかったー大好きでした。


ランディーズを生で見るのは一体いつぶりだろう!本当に久々に見たのですが、役柄も相まって、とても魅力的でした。特に高井さん扮する山田はお話のメインどころという印象で、自由なムチャ振りを楽しみつつも、後半の怒涛の展開で林の狂気に翻弄される様が真に迫ってて、さすが!と思いました。何しろ安定感が抜群なのです。林が全力で振るうバットを避けたりする段取りが、何一つ不自然じゃないあたりもさすが。ランディーズにしろすっちーさん(呼びなれない。笑)にしろ、大阪の先輩芸人さんは総じて舞台に慣れてるんだなーという印象が強かったです。
中川さんは、大らかでちょっといい加減なキャラクターがこれまたよく合ってたなあ、と。あの軽い感じが前半でたくさん強調されてたから、林に命乞いをするときの「時間が解決してくれる」なんて絶対言っちゃいけないようなことを言っちゃうあたりも、「何でもするから!」となりふり構わない感じも、あーあ言っちゃった・・・と思えるリアリティがあったのかも。


すっちーさんは、実は黒幕というものすごく美味しいキャラクター。前半、同窓会にちょくちょく顔を出してちょっかいをかけるウザさとお気楽さが際立っているだけに、惨劇のあとにひょっこり現れて「うわーめちゃくちゃやなー」なんて場違いな軽いノリがぞっとする怖さでした。ウザイけど気安いおっさん、だったのに、その気安さが、あのシーンだとぐっと際立って、林に銃を向けたりするのもその気安さそのままで怖くてよかったなあ。すっちーさん本当に上手い。さりげない台詞回しとか仕草でぐっときます。


ボンさんは、ボンさんらしいボンさんみたいな役で、とてものびのび演じていた印象です。それだけに、後半の展開での苦痛の様子とか、足を折られてのた打ち回る様が、悲惨さが際立って凄かったです。演出においてもきっと、そこらへんの表現を手加減しないという意識がものすごくあったのかな、と勝手に思っているのですが、ボンさんのお芝居はまさにそういう感じでした。お芝居の役柄もそうですが普段からもほのぼのとしたキャラのボンさんが、苦痛にのたうつ様は相当インパクトあります。
林の日記を読んでいるときに「もうやめろや」と言うあたりとか、ボンさんは普段の印象のせいかメリハリをつけたお芝居をしているのを見るとそれだけでどきっとします。


レアレアの二人は、桑折さんは実は何気に相当の当たり役では(笑)私達、なぜか公演後お茶をしながら桑折さんのことを話すのに全て「サントスが」「サントスが」と役名で続けてましたから(笑)ビジュアル的な理由も大いにあるかもしれませんが、わりとずっと出ずっぱりで、さらに最初の犠牲者でもありで、「4.5階の狂気」のときとはまた違った魅力を堪能できてとても嬉しいです。
大浜さんは、刑事役のスタイルがあまりにもぴったり似合っていて、刑事らしい貫禄も十分で、これまたさすがでした。巻き込まれて殺されてしまう役でしたが、もっとたくさん見てみたかったなあ。


そんなところで。他に書きたいと思ってたことがあるような気がするので、思い出したら追記します。安達さんの凄みにとにかくやられた、というのが一番かな。前回のカナリア班もそうでしたが、安達さんのちょっと気が触れたような芝居は一見の価値ありだな、と改めて思いました。こうなると、狂気とは違う、普通の安達さんのお芝居も見てみたい気がします。それはボンさんも例外ではなく。
ランディーズたすっちーさんも素敵だったので、大阪の芸人さんがこれからも神保町に出てくる機会が増えたら嬉しいな。
そして何より、こういうお話が神保町花月でアリなのであれば、次はまたちょっと違う感じのがっつりホラーとか、見てみたい!恐怖を表現するのは、笑いを表現するのと同じくらい難しいと勝手に思っているのですが、一度やってほしいなあ、ものすごく怖いお芝居を。


そうそう、オープニングがまた、見ててわくわくするような演出で、たまりませんでした。オープニングでぐんと引っ張られる公演は自分の中で当たりが多い法則、まだまだ外れません。