箱雑記ブログ

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神保町花月『ロックオン』

ちょっと時間が経ってしまいましたが、千秋楽も終わったのでネタバレで感想を。
ファンダンゴTVのカメラが入っていたようなので、放送までネタバレしたくないという場合はご注意を。
書いてるときはそんなつもりはなかったのですが、なぜか大変長くなりました。複数回見ることができた公演は、見ていて気付いた点や気になる点が多くなるので、必然的に感想も長くなるようです。



ストーリーは、銀行から3億円を強奪した4人の強盗が逃亡中に山小屋に逃げ込み、そこの住人夫婦やキャンプ中の兄弟などを巻き込んで、3億円に目の色を変えた人たちがシビアで愉快な攻防戦を繰り広げる、というもの。
お話そのものはとてもシンプルだし、演出も奇をてらったものはないのですが、見るたびに楽しいと感じる度合いがどんどん大きくなっていって、最終的にとっても気持ちよく楽しめた公演でした。


登場人物が次々に大金に目がくらんでいくにつれて、最初の「銀行強盗4人・夫婦2人・兄弟」の構図が次々に崩れていって、あっさり裏切ってみたり、知らなかった者同士が手を組んでみたり、仲間を見捨てたり、最初から独り占めしようと立ち回ってみたり、その目の色変えまくる登場人物達の動向が何気に興味深いのです。最終的に全員がそれぞれなりふり構わず3億円を独占しようとする潔さとかも楽しい。それぞれが涙を誘われたりやむをえない事情があったりするのではなく、完全に私利私欲で楽したいとか良い生活したいとかセレブな暮らしがしたいとかそんな勝手なことばかり言い出すのに、なぜかみんながみんな妙に可愛げがあって憎めなくて、それがとても好きでした。多分それは、笑いの数が多い脚本と演出になっていて、常にどこか気軽でウェットにならないノリを忘れない中身になっていたからかな、と勝手に考えたりしてます。
全体的に、お芝居というよりはコント的な要素が強くて、個人的には芝居色の強い公演の方が好みではあるのですが、若い座長と若い出演者が少数人数で作り上げる舞台としては、大仰な仕掛けを作らない代わりに、無理に背伸びをしないで等身大で生き生きと演じていくことが出来るこの作りが逆に良かったのかもなーと私は思えました。チームワークも良かったし、何より全員で楽しんで作り上げていっているんだろうと思える雰囲気が見てて清々しい。
初日の出演者一同による噛み倒しぶりを見たときには正直どきどきしたものですが(笑)千秋楽を見終わったときには、私思いの他楽しんだなあ、と嬉しく思えたのでした。


そういえば、公演前半と千秋楽では細かいところからラストのオチなどの大きなところまで、様々な変化というか変更というかが見られました。佐久間班を見たときも思ったことですが、公演中にたくさん変更を加えてどんどん見やすく楽しくなっていく公演も神保町花月では多い印象。
ラストのオチが、最初はひかり(赤枝さん)が逃げおおせて優雅に暮らす、という終わり方だったのが、千秋楽では逃亡先の南の島にも刑事が来て最終的には捕まる?という中身になっていて、随分変えたんだなあ!と。個人的には、全編通してこだま(江崎さん)以外の出演者が私利私欲に走ってお金に目がくらんで裏切ったり汚い手を使ったりする展開なので、最後のオチもあんなに正義を語っていた人がお金を持って逃げおおせちゃったねーというちょっとばかりシニカルな終わり方の方が好みではあったのですが、千秋楽の展開も、因果応報という意味ではすっきりしていていいのかも。
あと、その日ごとに変えていくネタ的なところがとても多くて、それも楽しかったなあ。江崎さんのムチャぶりももちろんですが、私が個人的に好きだったのは、村上さん扮する次郎(二朗?)が妄想中に美女に取り合いをされて両手を引っ張られたときの、「壊れちゃうだろ!」もしくは「ちぎれちゃうだろ!」の後の台詞。
「俺がベルリンの壁ならよかった!壊れて東西が統合される」「俺がパピコならよかった!」「俺がチーズならよかった!」等々。個人的にはパピコがクリーンヒットでした(笑)


日替わりといえば、鍋です。お芝居の中で鍋を食べるシーンがあるのですが、初日に食べてる演者さんが「本当にうまい」と夢中で食べていたので、これはちゃんと作ってるのかな?と思ったら、楽屋裏ブログを見たところ、ちゃんと作ってるどころか日替わりで味が変わっていたようで。すごいなあ、神保町スタッフさん(笑)
前の方の席のとき、ものすごーくおいしそうな匂いがしてきて(2日目かな?)夜だったこともあって本気でおなかがすきました(笑)家帰って鍋作ろうと思ったくらい。村上さんがじゃがいもをむさぼり食べているのも見ました。じゃがいもお好きだそうな。よっぽど美味しかったんだな…確かにおいしそうでした。
日替わりでの見せ所のムチャぶりも、もちろん面白かったのですが(笑)


全員のキャラクターが個性がしっかりしていて、それぞれにしっかり見せ場があったのもよかったなあ。バランスが良くて、いらない人が誰一人いなくて、そこも好き。
強盗役の中でも、村上さんだけは全体的な展開を引っ張る役割だったせいか、他のキャラクターと比べるとちょっとアクが薄かった印象なのですが、初日こそ盛大に噛みまくりではあったものの、後半の公演ではさりげなくメリハリのあるお芝居をしていて、だいぶ安心して見ることが出来ました。一郎が自分をサメの餌にするつもりだったと知ったときの、ゆっくりと一郎を振り返るときの静かな怒りの表情がすごく好きでした。目力いっぱいでいい顔をしてるんですよねえ。大声を張り上げたりするんじゃなくて、ああいうメリハリを扱える人はどうやら嫌いじゃないみたいです。
ただ、個人的には村上さんはもっと出来ないと!と勝手なことを思ったりもしました。そもそもの印象が「すごく出来る人」のイメージなので、こっちのハードルが高いのかもしれないのですが、なんというか、村上さんにはもっと「おー!」と思わされたい、のかもしれません。
次郎は最初は兄貴分の一郎(清人さん)に「逆らうな」と横暴なことを何度も言われて堪えているような下っ端然としたチンピラだったのに、後半一郎の裏切りが判明してから他の二人を取りまとめて仕切っていくようになるあたりも、今思うと結構興味深い気がします。


強盗役でとにかくインパクト抜群だったのが佐田さんが演じていたトニーで、私はこのキャラがとにかく好きでした。佐田さん曰く、「プリズンブレイクに出てくるティーバッグというキャラクターをイメージしてアレンジした」とのこと。私はプリズンブレイクを見てないので分からなかったのですが、どちらにしろその強烈な個性が全編通してたまらなくいい味を出していたことは間違いないです。
鷹揚で間延びするようなのっそりしたしゃべり方は、アクションなどの緊迫してるシーンでは逆にちょっと怖い感じになって際立つし、すごく強い(なんとなく4人の強盗の中では一番強そうなイメージ。これは佐田さんのイメージにもよるのかな)のに、完全な大アホキャラというそのギャップも楽しい。あと、どういうわけか彼はホモキャラなのですが(笑)そのトニーがジョー(中村さん)を呼ぶときの「ジョーちゃーん」という野太い声と呼び方がお気に入りです(笑)なんか真似したくなるんです。
そういえば、人が体を動かす(アクション・ダンス等)様を見るのが大好きな私は、次郎とスミオ(池田さん)に先に行っててくれと言って、金を奪ったジョーとスミエ(土居さん)を追いかけようとするときに、それまでのんびりとしていたのに電光石火の勢いで舞台を飛び降りていく姿を見るのが大好きでした。身のこなしがシャープで鮮やかなんです。これもやはり総長時代の財産でしょうか(笑)


そのトニーと一緒に行動していたジョー役の中村さんは、たまに演技にぎこちなさが見えるものの、佐田さんと絶妙のコンビネーションを見せてくれてて、とっても楽しかった。ジョーは何気にキーパーソンなんですよね。スミエさんに誘惑されて仲間を裏切ってみたり、金を取り返しにきたトニーに迫られたり(笑)
トニーのカミングアウトを聞いた瞬間の「トニーーーーー!!」の叫びが耳から離れません(笑)あのときの中村さんもいい顔してるんだ(笑)ファンダンゴTVで放送があるならば、ぜひいろんな方に見てほしいあのシーン。
ジョーの台詞ですごく好きなものがあって、それが「バカのふりをするのも疲れるぜ」(正確ではないです)というもの。それまでトニーとさんざんバカ会話をしていただけに、お!と思える。またそれがスミエを伴って逃げるときだからちょっとかっこいいんです。スミエといえば、迫られてでれでれになるジョーがこれまた面白い(笑)


清人さん扮する一郎は、唯一最初から3億円を独り占めしようとしているキャラクターで、清人さんのあまり起伏のない暗い表情としゃべり方はそういう得体の知れない、何をたくらんでいるか分からない様子がじわじわと伝わってくるのでぴったりだな、と。
そのくせ、美女との妄想シーンでや、トニーとのタイマン?シーンでのおちゃめさは計り知れなくてとても楽しい(笑)


池田さんは、山小屋に住み着く夫婦の夫という役柄。インパクトとキャラの作り込み方は佐田さんと並ぶくらいの素晴らしさ。想像している以上に、池田さんはスキルある人なのかも、とこういうのを見るたびに思わされます。もちろんなめて見ているつもりはまったくないのですが、見ているこちらのの期待をいつもちょっとずつ上回ってくれるのがすごいな、と。
なんといっても、前半の「謝ればすむと思っている」情けないスミオと、金を奪おうと覚悟を決めてからの豹変ぶりは最高です。キャラの変貌ぶりが、鮮やかというよりは極端すぎて、そのとんでもない極端さがとにかく可笑しい。
覚悟してからも、最初は妻と幸せな生活を取り戻すというのが目的だったはずなのに、妻の裏切りを知ってからは「もういい、金だ金!」にまで行き着くあたりが相当面白いです。考えてみると、スミオだけは金に目がくらんだといっても、「借金を返してもとの生活をやりなおして妻に笑顔を取り戻させたい」という、自分本位ではない理由がそもそもの発端だったんですよね。借金を作ったのは自業自得とはいえ、金を奪うということも、スミエに唆されて決意してのことだったし。
そういえば、妻の裏切りを知ったときのスミオのリアクションはどうやらどんどんエスカレートしていったみたいです。最初は「金さえあれば!」みたいな感じだったのに、後から見たときは「もういいや金があれば」とあっさりしていたのが可笑しかった。千秋楽に至っては、タンを吐きつける(かーっぺ!)だけで済ませるという(笑)あの時のお客さんの爆笑ぶりったらすごかった。しばらく笑いが尾を引いてましたから。


妻スミエ役の土居さんも、キーパーソン。そもそもこの人が唆さなかったらこの夫婦が3億円争奪戦に関わることもなかったんだし、ジョーを唆して二人で逃げることを提案したのもスミエだし。あれだけジョーに迫って色気を振りまいておいて、金を奪われたときにトニーにしなをつくってみせたりして、とにかく強かで根性の座った奥さんでした。あそこまで徹底されると、見てて気持ちよかったですから。
ぱっと見華奢できれいな奥さんなので、「年上の女は嫌い?」と言い出してジョーがおろおろするのも、普通に説得力があるんです。旦那の借金という理由ももちろん効いてるんですが。冴えない旦那とまだ若くて色仕掛けが通用するような奥さん、という組み合わせの妙でしょうか。土居さん、また別の役柄でも見てみたいと思いました。


山川兄弟の兄ひかり役の赤枝さんは、最後の最後で大金を奪っていく美味しい役でした。自衛隊あがりの実直すぎるキャラはとっても合ってる気がしました。たまに台詞の間がリズム悪いかな?と思うことはあったのですが、あの実直キャラだとその辺難しいのかも。最終的にバトルでひとり勝ちする(公演前半では最後にこだまが参加することもなかったので)のも妙に説得力がありました。
弟こだま役の江崎さんは、唯一お金に目がくらまなかったキャラクターでした。単に大金を目にしていないというだけの話かもしれませんが、むしろきのこ博士としてきのこにしか目がないという理由の方がありえそうな気がする(笑)
江崎さんは滑舌もいいので長い台詞も安心して聞けるし、何より出てくるとぱっと舞台が明るくなる感じがとっても魅力的です。明るくて元気でときどき変なところがあるというこだま役がぴったり!鍋のシーンでの、他の出演者に対するムチャぶりのときに、心の底から楽しそうに見えたのが可笑しかった(笑)なんか生き生きしてたんですよ。


私が漏れなく笑ってしまっていたシーンのひとつに、強盗4人と夫婦とひかりでのラストバトル直前に、全員が一列に並んでファイティングポーズをとるカットがありまして。あれ、なんであんなに面白いのかよく分からない(笑)けど、あの一列の様は妙に壮観でして、壮観なんだけど非常にばかばかしい、というそのギャップがたまらないのかもしれません。ここもファンダンゴTVで放送があった際にはぜひとも見直して笑いたい。
そういえば村上さんの「鶴の舞」のポーズ(どんなポーズかは鶴の舞のネーミングにて察してください)が、やたらとふらふらしててバランスが悪かったり、片足がちゃんと上がりきれてないあたりは、わざとなのか仕様なのか(笑)


そういえば、ストーリーを進めるにあたっての細かい仕掛けが結構好きでした。あれ何だったの?と後からつつきたくなるシーンがあまりないのはこの辺の仕掛けがちゃんとしてたからかな。
刺青のこととか、金の入っていないリュックの重さのこととか、金を入れ替えるきのこの大袋を持ってくる山川兄弟の理由付けとか。そのへんが一通りキャラクターとの兼ね合いで無理ない理由に見えるのが、個人的には気持ちよく見れた一因のような気もします。次郎が刺青をスミオに見られるシーンも、公演最初よりも変更された公演後半の方がより自然になっていたし、公演中の試行錯誤がしっかり形になっていっていたのもいいなあ、と。初日しか見られない人なんかも当然いらっしゃると思うので、良し悪しではあると思うのですが、よりよいものを作ろうとする意気込みが嬉しかったりしてしまうのです。
あと、照明と音響がやけに印象的。音響は雷や雨の音がすごく頻繁且つ効果的に使われていたからかもしれない。


そんなところでしょうか。
千秋楽はカーテンコールでのトークもボリューム満点で、すべては覚えていられないのですが、中村さんがしゃくれあごをいじられて「ナチュラルアイーン」と名づけられて落ち込んでいたりとか、村上さんの修飾過多な言葉選びを清人さんが「表現がうるさい」という素晴らしく的を射た言い方をしていたりとか(これから使わせていただきたい。笑)、池田さんの舞台衣装の半分は私物(ラコステの緑のセーターと靴)で、40歳設定のキャラクターなのに演出家さんに「それでばっちり」と言われたので「俺は40歳ということらしい」という話とか(笑)、本当に盛りだくさん、和気藹々でした。雰囲気のいいチームだったんだなあ。