箱雑記ブログ

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神保町花月「THE MOMO-TARO」

8日目の公演に行ってきました。ファンダンゴTVのカメラが入ってました。放送あるんですね。テレビでどこまで伝わるかは分からないけれど、ともあれめでたい。
とりあえず、ここにきてネタバレ感想を以下に長々と書いてみました。そりゃもう長いです。



鬼ヶ島まで行って鬼退治をして村に戻り英雄となった桃太郎の、その後の話を描いたお芝居。
10年後、桃太郎は村を牛耳り村人からあくどい搾取を繰り返す黒桃維新隊の頭領におさまっている、というもの。


お話は、桃太郎が人の子ではないこと、血縁と呼べる存在を持たないこと、そのため重い孤独を抱えて生きていることが根っこにあって、そこから、人ではない、親を持たない、不安定な存在であることの不安を長らく抱えていた若者が、己のアイデンティティーを支えてくれる愛する存在を得るが、それを失い裏切りによって傷ついてやさぐれてしまい、そんなときにあるきっかけによって起きた騒動によって、彼が直面した事実と、最終的に選び取ったものを描いた物語。と、私は勝手に解釈しました。
ストーリーは決して複雑でもないし、奇を衒ってもいないけれど、シンプルなだけに心のやり取りが実感できる仕上がり。「ハッピーな片想い」に比べると、だいぶシリアスで、毛色の違ったお話。よりお芝居らしい内容となっていたのかな。シンプルなだけに、演者の力量によってどうにでもなったんじゃないかな、と。
だから、このストーリーに犬の心やあべこうじさんが関わったことは、見る側にとってはとてもラッキーなことだったかもしれない。なんてことを思います。


一応時代劇ということで、衣装は和服一辺倒。多少のアレンジはありますが。桃太郎の豪奢な衣装が嫌味なく似合う池谷さんに素材としての凄みを感じる。浪人のような着崩した着流し姿が様になるあべさんも素敵。生真面目な役の押見さんは袴姿でこれまたきっちりと着こなしてました。楽屋裏ブログで一応時代劇、と知ったとき、眼鏡どうなるのかなーと思ってたのですが、見事にかけたままやってました。もはやトレードマークですね。(初日で殺陣の際に眼鏡が飛んでずれたりしてた。笑)
あと、犬猿キジにはそれぞれ獣皮や羽などと一緒にしっぽがついてて、それが大変可愛らしい(笑)キジなんて、尾羽なんだと思うんですけど結構わさわさとピンクの羽を揺らしているんだから、そりゃ可愛いわ(笑)白井さんにぴったり。


とにかく、とにかく池谷さんです。池谷さんなのです。このお芝居は、池谷さんの存在がとことん素晴らしいのです。
10年前の爽やかで純粋で心美しき若者・桃太郎と、10年後の闇を背負った暴君のような若者・桃太郎との、ふり幅の広さにまず驚かされます。10年前の桃太郎は絵に描いたような正義の味方で、ともすれはうそ臭さが漂うような良い子ちゃん的台詞も言うのですが、何しろ演じているのが「いいひと」池谷さんなので、違和感がないどころか、説得力すらある(笑)
対する10年後の桃太郎はというと、これが素晴らしい。とにかく素晴らしい。かっこいい、と一言で言うには惜しいくらい、悪のカリスマめいた迫力を漂わせて、烈火のような目つきをしてくれるんです。
芝居の中で10年前の出来事を語るうちに、真面目で真っ直ぐだった正義の桃太郎が、悪の桃太郎へと変貌していく様が描かれていくのですが、その流れの中での池谷さんの表情や態度の機微にはリアリティがあって、胸に刺さってしょうがなかった。不自然でなく、真っ直ぐな部分を残して、むしろそれが仇となって、悪の桃太郎へと変わらざるを得なかった様子に、ぐいぐい引っ張られてしまうのです。
終盤、殺陣のシーンで出てきてからは圧巻。李太郎がやられそうになるところに真打登場とばかりに現れて、舞台に飛び上がって、客席に背中を見せたままゆっくりを羽織を脱いで見せるところは震えるほどの存在感。あのシーン大好きです。
殺陣そのものが上手いというのもあるのかもしれませんが、それ以上に、刀を鞘から引き抜く瞬間とか、ゆったりと動きながら突然刀を振りぬく姿とか、相手を切りつけるときの迫力あるアクションとか、かつての部下達に向かって鬼の形相で啖呵切るところとか、仕草や立ち姿のひとつひとつが全部ひっくるめて絵になってしまう。動きの緩急なのか間の取り方なのか分かりませんが、というか見ているこちらはそんなことを考える余裕などないのですが(笑)とにかく釘付けになってしまった。
刀を振るって戦いながら、影を背負った凄絶な笑みをこぼしたりするんですよ。そのたびに客席でうわー!となっている私でした。あればっかりは、何度見ても慣れません。打ち抜かれ過ぎて身が持たない(笑)華があるということなんでしょうけど、むしろ華というより覇気という感じ。傷を負ってよろめきながら、それでも焦燥感を漂わせて笑う様も壮絶。
呆然としながら「俺にお美代が分からないはずがない」と呟くところも、最後の方で地に伏せて頭を抱えて泣く様も、お美代さんの名前を呼ぶ声の優しさも、何なんだこの人は!と見ていて無言の叫びですよ。全部に揺さぶられっぱなし。過去のいろんな声を思い出して立ち尽くしたまま、顔をぐしゃぐしゃにして泣く姿がもう、凄いとしか。内側から体が震わされるような、そんな感覚を見るたびに味わいました。
多分、私が犬の心が好きで池谷さんが好きで、普段お笑いの舞台で見る池谷さんもよく知っているからこそ、これほどに衝撃だったのかもしれませんが。大いにありえると思いますが、それでもやっぱりあの人の舞台での輝かんばかりの存在感は凄かったのです、と言い切る方向で。あんな役があれほど絵になって、且つ、迷いや怒りややるせなさも全開にして見せてくれて、鬼のような強さで舞台に君臨する池谷さんに、文字通り骨を抜かれたわけです。


桃太郎に相反する存在として、悪の面のように描かれるのが李太郎で、これを演じるあべさんの存在感も素晴らしかった。李太郎はただの悪人というより、ひどく純粋で無邪気な悪意の塊のような人物で、子供のような残酷さで簡単に人を騙したり、陥れたりする。そのちょっと空恐ろしいような悪意を、あべさんがすごく魅力的に演じていて、まさに悪の華!という感じ。
李太郎は桃太郎をどうしたかったんだろう。似たような生まれの存在が、自分よりも恵まれた境遇で、村人に愛されて頼られて、しかも心まで優しくて、そんな不公平を目の当たりにして、桃太郎が憎かったのか、悔しかったのか、それとも愛されたかったのか。愛されたかったのかな、と私は勝手に思ってます。
「もうちょっとだったのになあ」と言う台詞には、お綺麗な桃太郎を貶めたいという意思があるのかな、とも思ったり、「この女がいると兄貴は弱っちくなる」と言っているのを見ると、単純に彼が望むとおりの強さを持つ桃太郎になってほしかった、ということなのかもしれないし。そのくせ、「きびだんご食べたかったなあ」と言って絶命する李太郎はただただ哀れで悲しい。本当は愛されたくて、仲間になりたくて、孤独から開放されたかった人なのかもしれない。桃太郎に合わせて己を変えることが出来ず、桃太郎を変えようとすることしか手段を見出せなかったことが李太郎の悲劇なのかな。複雑で残酷で不思議な魅力を持った悪役キャラでした。
そんな役を、ものの見事に、それはもう見事に、絶妙のバランスで演じてくれているあべさんは素晴らしい。悪役なのにすごく魅力的で、見ているこちらは憎むに憎めない。あべさんが李太郎という役について「あまのじゃく」と語っているのを見たときに、深いなあ、と思ったりしました。ただ愛されたかっただけの子供だったのかな、なんて思うと、またちょっと感じるものがあります。そう考えると、最期の台詞もさらに痛々しい。
そうそう、10年前にお美代を斬りに行く直前の、「・・・クソ女だ」と呟く声の冷たさに、初めて見たときぞっとしました。あの落差がすごい。あべさんすごいなあ。あと、あべさんの殺陣は池谷さんの華やかさや押見さんの鋭さとは違う、重さや圧力のある殺陣で、すごくかっこいい。


押見さんは犬役。一見地味だけれど、かなり美味しい役。生真面目で、硬くて、義に溢れた忠犬。これまた普段の押見さんからはちょっと想像できないキャラ。変に真面目なところが妙に合っているような気がするけれど、へりくだって会話をする押見さんて新鮮(笑)
拾って育ててくれた恩義のある桃太郎に忠実に仕える犬は、それはもう葛藤はかかえてるわ李太郎は気に入らないわ自責の念にさいなまれるわで、なのに桃太郎を思うがためにじっと耐える姿は胸が熱くなる。他の仲間(猿とキジ)が離れていっても、主人が村人に鬼と恐れられても、10年前から桃太郎を知っている者達の中で犬だけは桃太郎を見捨てずに仕えていたんだな、と思うと、これまた色々と感じるところが出てくるものです。桃太郎が最後、あれほどに荒れた様子で一行の前に姿を現したのは、それまで何があっても、どんなに変わっても、最初からずっと桃太郎のそばにいた犬にとうとう去られてしまったということも、原因なのかな、とか深読みしてみる。
桃太郎が何者であろうと、ずっとそばに仕えてきた犬だからこそ、終盤での桃太郎に対する叫びの数々がすごく真に迫っていて、またそういうときの押見さんはそれまでの耐えるばかりの生真面目な犬ぶりではなくて、決意した意思の強さそのもので叫んでくれるものだから、どすんとくるのです。2回目見たときは、犬の「一人で生きていくことなど出来ないんだ!」の台詞でぼろっと涙が。普段冷静であろうとする犬が声をつまらせてそんなこと言うのだから、そりゃ泣きます。
最初は殺陣が時々覚束ない風に見えるのがちょっとはらはらしたけれど(笑)そのくせ、vs李太郎のシーンで空中で蹴りを入れたりするのは抜群に決まっていたりするのがにくい。
押見さんの凄いところは、回を追うごとにどんどんその役の深みと凄みが増していったように見えたところ。スロースターターというか、ピークが見えないというか。見るたびに、犬を見てしまう比率がどんどん高くなっていくんです。どこまでいくんだろう、と恐ろしいくらい。ものすごくいい表情をしてくれるし、ものすごく魂のこもった叫びを聞かせてくれる。単純に見所が増えてしまうというこの逃げ場の無さ。そういえば、このお芝居は心に刺さる台詞がたくさんあったのですが、犬の台詞はその率もすごく高かった。「大切に思うからこそ、噛み付くこともあるんです」「あなたの心の中の鬼、倒せるのはあなたしかいない」「一人で生きていくことなど出来ないんだ」ああもう、本当に良い!


チーモンチョーチュウ扮する猿とキジ、ぴったりだった!初回見たときも書いた気がしますが、菊地さんはなんとなく想像つくというか見る前から安心という感じだったのですが、白井さんはどう使われるんだろうと興味津々で。いざ見てみたら、これがもう、白井さんじゃなきゃ出来ない!という他では変えがたい役どころとキャラクターで、お見事!と思いました。犬と猿がどこか老成した印象だったので、若いキジのキャラは能天気で天真爛漫で、すごく良かった!じじいだのくそばばあだの直球過ぎる口調も、白井さんの高音ボイスだと何一つ嫌味がなくて、お得だなあ。
最後のシーン、初日二日目くらいは長めの台詞をキジも言っていたのですが、中盤くらいからなのかな?ひとこと、「桃ちゃん一人じゃないよ!」と、それまでのゆるい口調からは想像つかないくらい鋭い声で言い放つのが、これまた素晴らしく良かった。あれで泣けるくらい良かったです。マーさんの九兵衛さんと並んで、お話の中の和みと笑いの大事な役を担ってました。そのくせ、殺陣のシーンではものすごく厳しい良い顔をしてて、そのギャップも見ていてわくわくしました。
菊地さんはさすがの安定感。もう安心、安心です。まとめ役も任せられるし、殺陣もびしっと決まって気持ちいいし、器用だし、いてくれて本当に良かったと思えます。何気に見せ場も多かった印象。猿の一本立ちは普通にすごいと思った。猿役、ぴったり!これまた菊地さんならではという役回り立ち回りで、見所も多いし。
そういえば、桃太郎のこと、犬は「桃太郎様」、猿は「桃の兄貴」、キジは「桃ちゃん」と、それぞれの呼び方をするのも、細かくていいなーと。キジが桃ちゃんと呼びかけるところは、ずるいなーと毎回思う(笑)


マーさん扮する九兵衛さんは、どこか卑屈で小者風のキャラクターを、それはそれは存在感たっぷりに見事に演じていて、さすが!と思いました。マーさんも、ベルベットですごく良い役者だーと思ったものですが、久々すぎて忘れていたもので、改めて見たらやっぱりさすがで。散々泣いた後の、あの一人屋敷に乗り込んでくる間抜けさとか、してやったり顔とか、もう!楽しいなあ、と嬉しくなっちゃいます。ともすれば湿っぽくなるばかりのお話を、九兵衛さんの存在がところどころで引き上げてくれてて、いいなあいいなあ。こういう役回りを何気なくやりきってしまえる役者さんには弱い私です。台詞回しとかも、見れば見るほど味が分かるというか、上手いなあと思ってしまう。
実はマーさんには、もっとかっこいい役をやっていただいても良かったのに!なんて思ったりもしましたが、これはこれで、すごく大事な役だったので、良いんですね。


赤鬼青鬼は、ずるい(笑)何だあのキャラ付けは!(笑)もう笑っちゃうわー。すごいきもくて笑いました。コンビであれやらなきゃいけないのって大変だろうな・・・なんて余計なことも考えた(笑)がんがん笑えて参りました。
黒桃維新隊の4人も、殺陣とかかっこよかったなー。演出もいいんだと思うんですけど、殺陣の入りで刀を抜き放つところとか、シャツ引きちぎるところとかね、いちいちかっこいい。中でもチョコレートプラネットの長田さんが頭ひとつ抜けて見えました。ネタとか見てても上手いなー器用だなーなんでも出来そうだなーと思ってたけど、本当にそうだった。
村人のお二人も、要所要所で個性発揮。清美ちゃんは隙を見ての「疑惑の総合商社」で笑わせていただきました。
フォービーズからの阿山さんと水野さんは、さすがの役者魂。水野さんお顔小さいわー。ピュアで爽やかな感じが、池谷さんの嫌味の無さと相まってベストカップル。お美代さんは切ないなあ。ストーリー上一番のキーパーソンだったと認識しているのですが(この人があんなことにならなければ、そもそも桃太郎が悪となることもなかったわけで)、ほぼ紅一点(清美ちゃん除く。笑)たる可憐さがよかったのです。そんなに共感を呼ぶキャラクターではないと思うんですけど、一途なところとか、最後に出てきたときの痛々しさとか、華奢な感じと合ってて良いなあと。阿山さんは出番こそ少ないけど、桃太郎の育ての親、という説得力のあるいい人ぶりが素敵。


驚くのが、全員、特にメインどころの人たちの演技が見るたびに変化して進化して、見ていてめまぐるしいほどだったこと。あべさんのキャラの作り上げ方と、押見さんの重厚感を増していく芝居とか、特に刺さりました。池谷さんに至っては、ここにきてさらに輝きを増してきた、ように見えて(贔屓目も大いにあるような気がします)、もう本当に、見ていて私はどうしようもないです(笑)
あとは、何しろ殺陣が、最初は少しずつおぼつかない部分も見えたりしていたのですが、回を追うごとにどんどん決めるべきところが決まるようになってきて、見てて大変です。私体育会系なもので、見てると殺陣の動きに自分の体が反応しそうになるのが分かって非常に恥ずかしい。李太郎が飛び上がって切り込んでいくのとか、犬vs李太郎とか、桃太郎vs犬とか、桃太郎が6人を相手にする大立ち回りとか、大好きです。


この芝居をリアルタイムで追いかけることが出来たのが嬉しいです。初日、それなりに期待して見に行ったのですが、まさかこんなことになるとは・・・。我ながら馬鹿だなあと思ったのですが、こんなになるくらいいいものを見せてくれちゃった犬の心班の皆様のせいだ、ということにします。責任転嫁!一番最初にも書きましたが、このお芝居を、このメンバーで、この演出で、これだけ作り上げてくれたからこそ、私は今こんな状態になって、あと2回で終わってしまうことをこれほど残念に思ったり、見るたびに涙したり、笑ったり、震えたり、刺さったり、揺さぶられたり、しているわけでして。
お話そのものが好きというのもあります。脚本、好き。お芝居とかドラマとか、脚本ありき、と思っているところがあるので。胸に残しておきたい台詞がとても多い。最初にフォービーズで見たお芝居も、堀江さんの脚本だった気が。私あれ好きだったんだよなあ。演出も、かっこいいんだよなあ。
終わり方も、これがまたすごく好きなのです。親などいないと言っていた桃太郎が、親になって初めて、自分を育ててくれた人たちのことを素直に思い返す、なんて。にくいにくい。殺伐としていた犬が、やっぱり桃太郎のもとを離れられず、ほのぼのとした日常にちゃんと存在している、というあの感じもね。どういうわけか、今日は最後のこのシーンのあと暗転した途端に、ぼろぼろ泣けてしょうがなかったです。私ほんと、キリが無い!


残すところあと2公演というところで、我慢できずにネタバレ感想を吐き出してみました。長い長い。でもまだ、言いたいことを言えてないような気がする(いつものことではあるのですが)
千秋楽に行ってくるのですが、どんなものを見せてもらえるのか。終わってしまうのが寂しくて寂しくてしょうがないです。