箱雑記ブログ

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『叫』(黒沢清監督)

楽しみにしていた黒沢監督の新作を、初日に見てきました。



黒沢監督の映画にしては珍しく、ストーリーがちゃんとあって、謎解き要素があって、オチも一応あるといえばある、という、もしかしたら黒沢映画の中では人にお奨めしたら分かってもらいやすい作品なのかな。私はなんだかんだで見てない映画も結構あるから、比較できないのですが。
私は黒沢監督の映画に関してだけは、理屈を取っ払って見るという見方が出来るようになってまして、そういう意味では逆にちゃんと理由があって結果がある、みたいな流れの話だから、ストーリーを意識して見ることが出来たのが不思議な感じ。
相変わらず、音もなくぞっとさせてくれる感じとか、何も特別なシーンでもないのに、カーテンがゆらゆら揺れているだけで何かしらの禍々しさを感じさせるところとか、そういう感覚に訴えてくる映像でぞくぞく出来ました。怖いばっかりじゃなくて、美しいのは何故だろうといつも思う。繊細な美しさが禍々しさやぞっとする恐怖とイコールになるというのが面白い。そういう意味では幽霊が美しい女性なのも分かるような分からないような。
ラストカットが秀逸。ラストはカタルシスよりも、むしろ拭いきれない後味の悪さが多々。足元がなくなって落ちていくみたいな感覚です。ストーリーがあって謎解きもあるけど、結局黒沢映画の真骨頂ってそこじゃなくてこっちなんだな、なんて思ったりして、それが嬉しくもある。


「いつものホラー要素にミステリ要素も加味された映画」なんて紹介をされているから多少の誤解をもって見に来てがっかりする人が今回もいるかも。この人の映画って、結局カテゴリなんてものがまったく通用しない、強いていうなら「変な映画」だと、以前黒沢監督が語っていたけどまさに。だから変にホラーだのミステリだの決め付けて見ないほうが絶対に面白いし楽しめると思うわけです。
で、そうやって考えると、あえてストーリーというかミステリの要素を盛り込まない方が、この人の映画って伝わるものがあるのかも、とも思う。紛れちゃって勿体無い、というのもちょっと思ったりしました。