箱雑記ブログ

色々まとめています

THE 有頂天ホテル

とにかくまず早い段階で一度見に行こうと心に決めていたので、隣駅のシネコンまで行ってきました。
私は三谷病患者ですので、あの人の作るものはひととおり楽しめる人間ですが、姉も以前言っていた、「あの人は脚本家であるのと同じくらい演出家だ」という言葉に頷かずにはいられないくらい、三谷氏が自ら監督・演出しているかそうでないかで自分が感じる面白さも違うと思っています。
私が三谷氏関連の映画で最も愛しているのは「12人の優しい日本人」で、もう自分の中でこれを超える邦画は現れないだろうと思っているので別格です。
で、次は「ラヂオの時間」でしたが、「THE 有頂天ホテル」はこれに匹敵してしまったなあ。やっぱり三谷作品は空間を限定してナンボだと思いました。もともと劇作家でいらっしゃるのだから余計だと思いますが、三谷氏に関しては、限りない空間を与えられるよりは、ここまで!という不自由なラインを引っ張った上で、その不自由な空間においてどれだけ自由に表現するか、みたいなアイデアと発想の天才だと思ってます。「なにわバタフライ」なんてその真骨頂だったなあ。

前置きが長くなりましたが、面白かったです。やっぱり大好きだなあ、三谷脚本。
面白くて、馬鹿馬鹿しくて、でも登場人物たちはどこまでも大真面目で必死で、それだけに可笑しくて。
あれだけの登場人物が出てきて全員が基本的にわたわたとしているのだから、どこかでこんがらがってもおかしくないんですけど、すべてのキャラが見事に立っているので、そういった混乱は一切ありませんでした。
三谷作品は、笑えると同時に本当に心があたたかくなれるところが大好きです。見方によってはご都合主義にも思える幸せと奇跡の数々だけれど、決して「うまくいきすぎ」に見えないのは、要するに根っこのところで現実のシビアさを否定しないから。現実は厳しいなんてことは重々分かった上で、それでも、素敵なことは世の中にあふれてるってことを、三谷はフィクションの中で見事な説得力でもって見せてくれるから、もうその小さな幸せには抗えません。(こういうところ、やっぱり荻原浩に通じるところがある気がするんだよなあ)
そうなんですよ、三谷作品には説得力がある。説明しすぎないし、説教くさくもない。情けない大人は情けないままで十分素晴らしい愛すべき大人なのだと言うんですから。かっこ悪くて何が悪いって言うんですから。誰一人として大事でない人間はいないと言うんですから。
夢ある青年の声は道行く人たちには誰にも受け入れられないかわりに、たったひとりの人間の人生を変える、なんて、素敵すぎる。

ああそれにしても、なんたる出演者の豪華さ。
誰も彼も嫌味のない役者さんばかりで、時に強烈に、時にささやかに、時に美しく、ときに滑稽に輝く様がまた豪華。
役所さんはやっぱり素晴らしい俳優さんだと思ったし、佐藤浩市さんの重厚感もたまらない。本当に素敵だ。かっこいいなあ。
『贋作・罪と罰』を見たばかりだったのもあるけれど、松たか子さんの株上がりまくり。なんてチャーミングな役者さんだろう。ふり幅が広い!
篠原涼子はもともと大好きなんですが、それにしてもキュートで色っぽかった。ひたすら可愛くてしょうがない。
麻生久美子は相変わらず抜群に綺麗で可愛らしいし、戸田恵子さんは存在感が見事だし。
オダギリジョーはやりすぎだし(笑)唐沢さんはもっとやりすぎだった(笑)やりすぎといえば池田成志さんもやりすぎだった。ていうかこの映画はそもそもやりすぎな人が多い(笑)
伊東四郎さんはずるい。もう全編通していろんなところを持っていっていた。あそこまで喜劇に徹してしまえるベテラン俳優ってかっこよすぎる。
私の涙腺を緩ませる場面には必ず香取慎吾がいました。香取くんの自然体は場面によってはたまらない。絶妙のキャスティング。
やはり三谷幸喜という人の作る世界を愛しています。近いうちにもう一度見に行こう。

難癖をひとつつけるとしたら、ワンカットワンシーンという手法を多くとられているが故に、時々カメラワークがぎこちなく感じることがありました。ああ、今あそこが映ってたらいいのに、と思う瞬間が何度か。
パンフレットの佐藤浩市さんかな?の話の中で、三谷氏が自ら「自分はカメラワークについてはよく分かっていない」的なことを言っていた、というくだりがあって、なるほどなあと思ったり。
正直だ、三谷さん・・・(笑)

ところで、パンフレットの三谷氏インタビューにて、映画として作る題材の候補が「ホテル」のほかにあれとかこれとかがあったらしいと書かれていますが、わーどれも見たい。いつか実現する日を楽しみにしたいです。