箱雑記ブログ

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神保町花月『晦の夜の果て』

2008年最後の神保町公演に行ってきました。今更ですが簡単に感想を。この公演大好きでした。
そういえば神保町花月の感想をがっつり書くのは久々のような気がします。こんなに神保町大好きっ子なのに(笑)




脚本演出が白坂さん(はらぺこペンギン)で、犬の心座長で家城さんも出るとなっては、私が行かない理由がないということで、だいぶ前のめりな気持ちで見てきました。


ラーメン屋に集う今はばらばらになりつつある8人兄弟の話。昔は大家族物語の特集などに取り上げられていたけれど、今はその過去が苦い思い出になっていたりする中で、大家族物語をもう一度作りたいというテレビ番組のプロデューサーがやってきて、家族にちょっとした動きがある、という感じのお話。
私このお話大好きでした。そもそも兄弟モノのお話に弱いという上に、親に対する葛藤や愛憎もひっくるめて描かれていて、見えてくるのは家族の絆というよりは、それぞれが持っている血のつながりという存在に対する思いのようなもので、その自然さと、痛みと優しさがなんともじんわりとしみこんできました。やっぱり白坂さんの脚本は本当に好きです。2009年こそはらぺこペンギンさんを見に行きたいな。


キャラクターとしては、長男(家城さん)と次男(押見さん)、彼らとは微妙に立場の違う三男(吉村さん)、そして外部の人間であるテレビ局の人間である鈴村(池谷さん)のあたりが色々と絡まっていくのがじわじわ来ました。
個人的に、鈴村を家族番組に突き動かす要因となる、優しさの足りない父親との関係、優しさの溢れるラーメン屋の元店主と大家族に対する憧憬みたいなものが、本人の口から語られる前にがつんと自分の中に入り込んできた瞬間があって、それでもう駄目でした。そういうシーンじゃないのに泣けてきて空気読めない客でした…(笑)池谷さんのお芝居がよかったせい、ということにしておきます。笑顔いっぱいのあたたかい家庭に憧れていた少年が、その家庭に自分の寂しさの原因である父親が近づいていったのを見たときに、どんな思いだったかな、とか。時を経て大家族と再会したときの、大家族の現状を知ったときの気持ちはどんなかな、とか。色々とやりきれないものを想像してしまいました。彼にとってこの大家族は彼の思う「家族」の象徴であって、大事な思い出を担うものだったのだなあと。父親へのこだわりがそのまま大家族へ跳ね返る様は、とても自然に思えたし、鈴村にこびりつく父親への複雑さがもどかしくもありました。そうして結局、対抗心ゆえとはいえ父親と同じように大家族の取材をしようとする息子の業みたいなものも、切ない。そういえば、息子に「だれだれださんちの家の子になりたかった」と言われて、その家の取材を始める親の気持ちも、想像するとなんとも切ないものが。
大好きなシーンがありまして、それが長男と鈴村が対峙するシーン。鈴村が長男に「僕とあなたは似てます」というシーンがとてつもなく好きでした。池谷さんの、それまで柔らかい雰囲気だったのが長男の言葉や態度でびりっとなる感じとか、やさぐれたことを口にしながらもどこかしら力のこもらない様子だった長男が、そこでぐっと張り詰めて鈴村を見据える様子とか、ひっくるめて最高にぞくぞくしました。


私、長男のキャラが大好きだったのです。家城さんの役の見せ方が素晴らしすぎた。父への怒りでもって真っ先に家族を捨てて出て行ってしまった人で、久々に帰ってきた長男の言動=「店を売って金を貰う」は、それまで店を切り盛りしていた次男や他の兄弟に対しての裏切りに見える。だけど最初から「酷い裏切りだ」と断じるには、長男の態度は人間味ありすぎというか、いかにも長兄らしすぎて、「父への復讐のため」に店をつぶすという目的があるだけで、弟達をどうこうしたいとか一人だけいい思いをしたいとか、そういう情の無さは感じられない。自分の弟達のことは最初から大事に思っているのが分かるというのが、もうたまらないものがありました。次男が店や両親や兄弟を全部背負っているのをたしなめるセリフもあったし、店をつぶすことは父への復讐であると同時に弟達にとっても悪い話ではないと、この人は確かに思っている、というのが、本当に最初から、ずっと分かる。金目当ての嫌な奴っぽい言動をわざとしていても、その大事な部分が最初から最後まで一切ブレずに、でも見えすぎずにそこに在る、というのが、私にとってはちょっとした感動でもありました。家城さん素晴らしいなあ。もちろん、すごくいい人とかでなはなくて、欲もあるしずるい点も卑しい部分も多々あるけれど、それでも長男として兄弟のことは気にかけている、気にかけずにいられない、というキャラクターの深みというか、説得力というか。
だから、父に対する誤解が解けて、その場でうめくように葛藤した挙句、空気の読めない立ち退きを迫る男(橘さん)相手に奇声を発して襲い掛かる際のポップな明るさというか面白さが、変に長男の悔恨を描く形じゃなく照れ隠しのような心安さで逆にいいなあ、と思って見てました。あそこですまなかったみたいに直球投げないところがいかにもこの長男らしい!と。
書いてて思いましたが私家城さんの長男のことが好きすぎたようです(笑)


それと相反するポジションで描かれている次男の不器用さと危うい責任感も、見ていてもどかしく思うくらいに素敵でした。母が亡くなって父が捕まってたったひとりの兄が出て行って、俺がしっかりしなきゃ俺が守らなきゃと頑なに踏ん張る様が、押見さんにとても合っていたように見えて、これもとても自然な思いで見てました。押見さんと苦労って相性いいんだなあ。俺が守ってきたんだという自負が、見ていて痛々しいくらいで。病気のくだりは見ていてもがーんとなって、しかもラストシーンでの描かれ方が、病気そのものの雲行きの怪しさと家族としての暖かな未来とで反比例のような印象だったので、ほっと笑顔になりつつも切なかったなあ。全部が上手くいかないけれど、その中で少しの光明をみんなで大事に抱える、みたいな白坂さんの脚本が、やっぱりすごく好きなのです。以前の『黄昏』もそんな感じで、同じように好きだと思えたので。


それにしても8人兄弟、全員すっごく魅力的で素敵だ!ネゴさん扮する四男は一番欲望に忠実に動いていて、途中はかなり見ている側をイラっとさせるのがさすが。それでも憎めないあたりがネゴさんのキャラクターのなせる技なのかなあ。一見しっかりしていて真面目そうな西島さんが、ギャンブルがやめられない駄目な五男を演じている様子も新鮮だし、逆に関根さんが真面目で堅実で腕のある料理人をやっているというのも新鮮。岡部さんはすごく当たり役だったのでは。現代っ子らしい奔放で悲壮感のない言動と、七男らしい甘えたな部分がぴったり。唯一の女の子で末っ子の武田さんは、すごく可愛くておきゃんで、好感度高すぎました。そりゃ次男は守ってあげなきゃって思うよね!って(笑)
三男の吉村さんは、実はすごく難しい役柄だったのかな、と今になって思います。三男はどっちの味方とか店をどうするとかお金がどうこうなんてどうでもよくて、ただ昔のように家族仲良くしたかっただけ、という、8人の中でも極めて邪念の少ない人だったのですが、その人のよさと紙一重の優柔不断さがしっかり見え隠れするのがいいなあ。このお芝居には、「いい人」「悪い人」と割り切れる人がほとんどいないというあたりが素敵です。みんなそれぞれの思惑を持ちながら、それでも心のどこかで家族を思いやったり、助けようとしたりするんですよね。


唯一部外者だとエンドトークなどで寂しそうだった橘さんは、これもある意味ハマリ役(笑)チンピラ風スーツ姿で出てきて出オチなみに笑いをさらうのだから、さすがとしか言いようがないです。出番としては少なかったと思うんですけど、インパクトが十分すぎる。相変わらず歌詞作りの才能が無駄にありすぎます。面白かったなあ、あのラップ。終盤での空気の読めない登場ぶりがすごい(笑)またそれが似合う(笑)


笑いの部分も盛りだくさんで、西島さんが無意味に袋叩きにされる様子だとか、岡部さんのナチュラルに失礼な感じとか、楽しかったなあ。岡部さんの「空気間違えちゃった」が大好きでした。あと関根さんの昔のあだ名シリーズ(笑)


そんなところです。大好きなお話でした。やっぱり家族もの、親子もの、兄弟ものには弱すぎます。と毎回書いている気がするので、要するに私自身が弱いと思うシチュエーションや設定が無駄に多いのかもしれない(笑)