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神保町花月『バーバー風林〜失恋理髪店〜』

一周年記念公演のラストを飾った公演。楽しかったです。とにもかくにもピンクでポップで可愛らしさと楽しさでいっぱいの演出と、ラストシーンの素晴らしさ。これに尽きる!以下簡単にネタバレ感想です。



「失恋理髪店」と呼ばれる理髪店の「スペシャルな1日のお話」だそう。オープニングの映像と、外国語(フランス語?イタリア語?)のナレーションと、その「スペシャルな1日」というフレーズとで、何となく「王様のレストラン」を思い出してしまった私。「アメリ」っぽい気もしたのは私があの映画=ヨーロッパおしゃれ映画の全て、という偏った印象を持っているからに違いない(笑)(大好きなんです)
劇中曲で「有頂天ホテル」のサントラがよく使われていたこともあるかもです。ワンシチュエーションという舞台設定もひっくるめて、三谷好きの私にはなかなかたまらないものが(笑)


お話的には本当に罪のない、驚きと楽しさの詰まったシンプルなストーリーで、嫌いじゃないなあ、と。ストーリーそのものよりも、演者さんのキャラクターやそれぞれのやり取りがくっきり浮き出る作りになっていて、そういう意味で楽しめるお芝居でした。
カナリアがいて、中野さんがいて、きっとお芝居をばっちり見せてくれるに違いないヒデさんがいる、というのもあって、最初はがっつりとしたお芝居を見たい、というか期待して見に行ったので、その点ではちょっと物足りないなーと思ったのですが、その後で改めて見るときに、その辺の頭のスイッチをちょっと切り替えて見に行ったら、すごく楽しめてしまいました(笑)我ながら単純です。


とにかく大好きだったのがラストのヒデさんと中野さんのしっとりとしたシーン。とっても大人で、優しくて、切なくて、見ていてじわじわといろんなものがこみ上げてくるひとときでした。心底憎んで離婚する夫婦ばかりじゃないことが、何となく分かってくる世代の私としては、別れると決めた瞬間から仲良くなってしまう二人の心理とか、何となく想像が出来てしまう。近すぎる距離で毎日のように顔を合わせて付き合うと嫌なところが目に付いて全然上手くいかないのに、ちょっと距離を置いて、たまに会って話すくらいの関係になると、途端に優しい気持ちを維持できてすごく上手くいく相手というのが、自分の過去にも確かにいたなあ、と思い出してしまいました。
憎んで別れる相手じゃないのであればなおさら、10年という決して短くは無い時間を共に過ごした相手と今日を最後に離れるとなったら、感傷なんてもんじゃないよなあ、と。中野さん扮する奥さんは、恐らく20代という華やかで貴重な時間を一番長く過ごした相手と別れるんだろうと想像できるわけで、自然とこぼれてきてしまう涙の理由って、きっとそんな簡単なものじゃないんだろうな、と。そういういろんな心の動きを感じられるような中野さんの涙に、ちょっと貰い泣いてしまったのはここだけの話。
だからヒデさん扮する旦那さんの、「俺のせいでごめんな」という台詞は、何とも優しいけれど、切ないし痛いなあ、と思ったのでした。結果別れてしまうのなら、一番女性が若くて輝く時期を棒に振らせてしまったと思ったのかもしれないけれど、そうして気遣って悪かったと思われるのは、それはそれで本当に無駄な10年だったと思えてしまいそうで、痛々しい気がしてしまうので。それでも言わずにはいられないくらい、10年て長いし重いってことなのかもしれないです。あのシーンのヒデさんの、凄く頼れるって感じはないけれど、懐の深さが滲み出るような様子がまた素敵で、このシーン、本当に大好きでした。


そういえば千秋楽の終演後のトークで、吉田さんが「これ以降の夫婦のことを考えると切ない」「旦那さんは温泉に行って帰ってきてまた理髪店やりはじめてもそこに奥さんがいなくて一人になっちゃって」という話をしていて、吉田さんとボンさんで裏で盛り上がっていたそうなのですが、私も見てて同じようなことを考えていたので笑ってしまった(笑)やっぱり考えちゃうよね、と。


久馬さんがエンドトークに出ていらしたときに、阿部さんとボンさんの髪型ありきで話を作った、と言っていて、なるほどボンさんがストレートの長い髪型、阿部さんがパーマ(巨大アフロ)という逆の髪型なのはそういうお遊び要素だったんですね。結局あの二人に関しては、阿部さんはオープニングと登場時以外は巨大アフロだったし、ボンさんに至っては一度たりともご自分の髪型での登場はありませんでしたし(笑)ボンさんの長髪ストレート、妙に味があったなあ。


中盤、安達さんと吉田さんが二人だけで延々ふざけているだけの時間があるのですが、あれは本当に、お二人のことがどうでもよかったら苦痛以外の何ものでもないのではと見ていて心配になるほどに、本当にくだらないことをひたすら延々繰り返していて、個人的には無性に楽しかったです。ひょろっとした二人が並ぶのも見た目が新しい感じですし、安達さんがのびのびと好き勝手やりながら吉田さん相手に遊びまくっているのはそれはそれは新鮮。千秋楽のエンドトークで「吉田くんを困らせるだけの20分」みたいなことを安達さんが言っていて、楽しかったらしいのですが、見ているだけでもなんて楽しそうなんだろうと思ったものです(笑)きっと安達さんも普段ない役回りにご機嫌だったんだろうな、と勝手に推測(笑)
あんなふうに振り回されっぱなしの吉田さんも同じくらい新鮮で、二人でわちゃわちゃしている様はただの中学生じゃないか、と思ったとか思わなかったとか(笑)


ヒデさんと黒沢さんは、もちろん神保町でお芝居しているのを見るのは初めてだったのですが、お上手なんてもんじゃないなあと。安心しきって見てました。ヒデさんは大人!って感じの穏やかな落ち着きがあって、黒沢さんには独特の迫力があって、見ごたえありました。歌は言うまでもなく(笑)
ガチでじゃんけんしてモノマネしながらカラオケ、のくだり、千秋楽では吉田さんとヒデさんが歌ったのですが、ヒデさんのカラオケに普通にうっとりしてしまったものです。また役に入ったまま「あなた、頑張って!」「あなたなら出来る!」とヒデさんに声援を送る中野さんがキュートなんてもんじゃなかったです。可愛くて綺麗って最強じゃないか。
キーパーソンのお嬢様役のキシモトマイさんは、キシモトさんだけが持っているメルヘンなマンガチックな存在感が癖になる感じ。世間のことはよく知らないけど恋には一生懸命のお嬢様、というのが嫌味なく合ってるなあと思いました。


一周年記念公演最後の公演、楽しかったです。