箱雑記ブログ

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神保町花月「ラストニュース」

今更ですが、ミルククラウン班の神保町花月を見てきました。すごく良かったです。もう1回見たかったかもしれないなあと思うくらい。感想をネタバレ満載で以下に。



売れっ子ニュースキャスターの主人公が、罪を犯したことを隠し続けて生活をしていくけれど・・・という内容。神保町花月にこういうずしんと重いテーマって、そういえば今まで私が見た分ではなかったような気がします。脚本もすごくよくて、展開もいろんな要素をはらんでいて、やりきれない内容にもなってて、でも最後にはなんらかの救済があって。私はこれ、すごく好きでした。家族モノというか、兄弟が関わる話というのに問答無用で弱いという理由もひっくるめてですが、とにかく自分の中で色々と揺さぶられる点が多くて、見られてよかったーと思いました。


とにかく、最後のシーン!最後のシーンがあんまり良くて、私は最後の最後の一番平和なシーンで涙してしまったのでした。ジェントルさん演じる省吾については後でがっつり言及したいのですが(笑)お話の主軸を担っていた夫婦である二人が遠い場所にいる、そんなシーンで、何があっても変わらず彼らを慕っている他人であるはずのルビーと兄の二人が「二人で待とうな」と言って笑いあうというのは、たまらないところがありました。


誰かが(この場合は省吾が)自分の大事なもののために、自分の存在を徹底的に犠牲にするというシチュエーションには本当に弱いです。そこに躊躇が見られなければ見られないほどに弱いです。なので、作中での省吾の行動には本当にやられたというか、文字通り撃ち抜かれました。兄は弟と彼の妻のために、自分が誇らしく思えるもののために、何のためらいもなく己を投げ出して彼らを窮地から救おうとしたわけで、その行動の痛々しさがたまらなかったなあ。
同時に、人殺しだろうと悪人だろうと何だろうと、大事な兄弟であるという一点において、省吾にとってはたとえ圭吾が人を殺して隠して罪を隠していても、その弟の生活は守るべきものであったのだなと思えて、さらに迫るものがありました。そういう状況にも私はひたすら弱い。
個人的にどうもこのお話の感想は、省吾の存在について言及したくなりがちです。完全に好みの問題(笑)


というわけで、兄・省吾役のジェントルさんがすごく素敵だったのです。そもそものキャラクターが素敵にクセのある役柄で、またそれがジェントルさんの風貌やキャラによくマッチしてていいのです。軽薄でいい加減でだらしなくて、でも弟とその妻に対してだけは破滅的なほどに真摯で、もうずるいことこの上ない。軽薄な感じが本当に似合うんですよ、いい意味でいやらしくて、悪い意味で色っぽい、というべきか(笑)
たとえば、弟とその妻の生活を身を挺して守ろうとしたのは、弟の存在が駄目で駄目でどうしようもない自分にとっての唯一の誇りだったりするからだろうか、とか、そのあたりを深読みしはじめるときりが無い。私は省吾が弟をひっぱたくシーンが大好きだったのですが、そうして弟を叱咤しながら、それでも弟の生活を守ろうとした理由を、どうしても考えてしまうのです。ジェントルさんはそういうところをこちらに考えさせてくれるようなお芝居を見せてくれてて、本当に素敵でした。


主人公は竹内さん扮する圭吾でしたが、順風満帆な人生を送るニュースキャスターの人生が一気に傾く様と、その中で罪の意識と己の保身でぐちゃぐちゃになっていくというシビアで難しい役どころを、竹内さんがものすごくらしく演じているのがすごいな、と素直に感心してしまいました。人を殺してそれを隠そうとするのは、成功している人間だからこそ、今の生活に執着もあるだろうというのもひしひしと感じられましたし。返すもがえすも脚本が素晴らしいのだと思うのですが、それを体言してのける竹内さんはやっぱり上手い人なのだなあ。
最後、ニュースの中で罪を告白するシーンは、容赦なく気持ちがこめられていて、見ていて固唾を呑んでしまいました。


武内さん(奇しくも夫婦役でタケウチ姓だったのですね)はさすがの安定感。ばっちり女優さんですし当たり前なのですが、生活感があって、尚且つどこか泥臭い風の奥さん・夏江役が、すごくはまっていて素敵でした。重岡さんの下ネタ攻勢にもめげずにきちんと対応していたのは涙ぐましいほど(笑)しかし本当に重岡さん酷いよ!


そんなわけで、重岡さんは酷かったんです(笑)そもそも女性役という時点でもうずるいんですけどね。お話そのものにはほとんどかかわりのない役なのに、あれほどインパクトを残せるくらいにねじ込んでくるあたりは、今までの神保町花月で重岡さんが培ってきたものが何なのかをしっかり目の当たりにした気分(笑)
ただ、話と話の合間のほっとひといきつくべきシーンではいいんですけど、話がぐんと動き出そうとするところでも重岡さん流にやりたい放題でなかなか話がスムーズに進まないところもあったりで、途中でうーんとなってしまったりも、実はしました。すみません。
森木さんもまた、ストーリーにはそれほどかかわりがないのですが、楽しかったなあ!最後おいしいところも持っていくし(笑)何なんですかラフコントロール(笑)森木さんは地味ながらも実はすごく上手いと思って見てたのですがどうでしょう。
あと、セットのテレビ画面が1つ、ラインが変わってしまって文字が表示されなかったりしていたのを、森木さんが芝居で好き勝手しながらも不自然でなく笑いを取りながらラインを元に戻したのを見て、すごい!とひとり感激してました。あれは森木さんのアドリブなのか、はたまた指示があったのか、どっちだ(笑)


初めて神保町で見るクレオパトラはすごくよかったなあ!私はあの桑原さんの無駄に濃いキャラがどうにもツボで好きでたまりませんでした(笑)スタイルもいいし、手足も長いし、とっても舞台栄えするというのにあのキャラ(笑)
長谷川さんもどういうわけか刑事なのにギャル男キャラという(笑)またそれが意外と様になっているあたりがミラクルです。
来八のお二人もよかったなあ。特に小林さん扮する刑事は要所を押さえる役どころで。すごくかっこいい見た目の人なんですが、そういう印象よりも渋い刑事の印象が残るんだから、やっぱり上手な人なんだろうなあと思います。


「ラストニュース」を見に行く一番の要因になったのはやっぱり平田さんなのですが、見るたびに本当に素敵なコメディエンヌでいらっしゃるなあと思い知らされます。フィリピン人の家政婦でがっつりメイド服、という不思議な役どころだったのですが、これがまたストーリーにもじんわり関わってくる役で、平田さんの愛嬌たっぷりな存在感にぴったりで素敵でした。役に入った上でストーリーを崩さずあれだけ笑わせてくれて、素晴らしいなあ。最後のシーンはジェントルさん扮する省吾と平田さん扮するルビーが、圭吾と夏江の夫妻の家で、傷ついたもの同志寄り添って微笑みながら夫妻の帰りを待つ、というシーンなのですが、省吾に抱きしめられるルビーが本当に健気で可愛らしく見えて、あんまり優しい絵なので泣けてしまったのでした。


しかしよくよく考えてみると、売れっ子キャスターと料理研究家のカリスマ主婦の夫婦って、今回のこの話を成立させるにあたって絶妙すぎる設定だと思います。罪を隠してでも守り通したいくらい成功して安定した生活をしていないと、説得力がないですもんね。そういえば、ひき逃げの現場で聴こえた声で最終的に刑事は圭吾を犯人ではないかとあたりをつけますけど、そういう細かいところも上手いこと作ってるんだなあと。
あと、来八田中さん扮する与田が別件で無実の罪を被ることになってしまったときに、人としての良心に従って彼のアリバイを証明すると、逆に自分達がしたことがばれてしまう、という究極の選択を迫られることになっていて、このあたりも本当にうまいことやるなあ、と。与田は自分にはアリバイをあることを主張するが受け入れられず、人質を取って立てこもり(これが物語冒頭のニュースとなっている)、最終的にそこで犯人として結局射殺されてしまうのですが、結局彼を間接的に殺したことになる夫妻にとっては大ダメージだったはず(そのニュースを見たときの武内さんの表情が印象的)そこに、兄省吾が自分達にとって不利な証拠となる車に乗って大事故を起こして意識不明、というニュースを自分が読むに至って、圭吾は自分が犯した罪をニュース中に告白する、という流れ。この終盤の怒涛の流れがすごくて、演出が抜群なのもあると思うのですが*1良かったなあ。省吾が生きていてくれてよかった、と思ったのは私だけじゃないはず。この上兄を失ってしまっては、本当に救われないですから。そういうのもあって、ラストシーンで泣けたというのもあるかも。


というわけで、もう1回くらい見たかったかもしれないな、と思いました。すごくいいお芝居で大好きでした。まだ何か書き忘れているような気がしますが、思い出したら追記するということで。

*1:「ラストニュース」の演出は「THE MOMO-TARO」を演出されていた高梨さん。