箱雑記ブログ

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東京ヴォードヴィルショー第61回公演『エキストラ』

東京ヴォードヴィルショーは、最後の三谷脚本公演で、今回は演出も三谷が手がけるということで、これは見なくてはと行ってきました。
今まで見てきたお芝居で、ダントツに渋い俳優陣のお芝居でしたが、これがまた素晴らしかったんです。

いわゆるパブリックイメージの三谷のポップなコメディではなく、ほろ苦くて時々ブラックな、ちょっと毛色の変わったコメディでした。簡単に言ってしまうと、かなり大人向けという感じ。
仕事という現実と人情のせめぎあいが繰り広げられるのを見ながら、昔は確実に人情側に100パーセント感情移入していたはずなのに、今の私はなんだったら現実側にも確実に感情移入して見ていたのに気付いて、ちょっと寂しくなりました。
仕事なんだからしょうがない、わがまま言うなよ、という気持ちが分からないでもない、と思えてしまう・・・大人になるってこういうことか。
人情だけでは立ち行かない現実と、その中でもなんとか己の思いを全うしようとするエキストラの存在とか、それと対比されるスタッフの存在と、その上に君臨する足元を見ないプロデューサーの存在と。やるせないながらも、色んなものが観劇後に心を支配するお芝居でした。

たくさん笑って、同じくらいもやもやして、最後になんともほろ苦い気分を味わうという、あらゆる側面を網羅したお話で、無駄な登場人物はおらず、細かい伏線もちりばめて回収して、それを破綻無くきっちり2時間にまとめて、暗転・場面転換なしに見せることが出来る、というのは・・・やっぱり三谷は凄い人だなあ。この人は脚本家であるよりも先に、劇作家であり演出家であると強烈に感じました。

それにしても、伊東四郎という役者さんはなんでこんなに素敵なのだろうか。三谷脚本におけるかの方の立ち振る舞いと存在感たるや、これはもう永久保存版の勢いではありませんか。どこか間が抜けていて頼りないながらも優しくいとおしく、決して鮮烈ではないし華やかではないけれど、無くてはならない確固たる存在でした。あれを見ることが出来て感無量。
角野さんも、テレビで見るより何倍も素晴らしかったし、佐藤B作氏に至っては、もう間違いなく舞台役者なのだなあ、と思えるその覇気に打たれっぱなしでした。はしのえみちゃんはとても可愛らしくしゃんとしたアクセントで、安心して見ていられるコメディエンヌぶり。三谷芝居における酒井美紀さんに似たポジションかも。
他にもたくさん素敵な役者さんがいて、もう目移りするほど。面白かった。凄くいいお芝居でした。

ちなみにこの後、ルミネでハリセンボンの近藤さんが「角野さんじゃないですから!」と言っているのを見て、あまりのタイミングに大笑いしたものです(笑)
そういえば、『エキストラ』の中でも、役者さんの面白やり取りの後でB作さんが「お前ルミネ行ったほうがいいんじゃないか」と言っていて、あの回のお客さんであの台詞で一番笑ったのは、その後ルミネの予定を控えていた私じゃないかと思います(笑)